ラップを支える技術
自己紹介
犬塚です。わんわん と呼ばれています。
あんまりオリエンテーリングをちゃんと競技としてやっていたわけではありませんでした。ときどき計算センターとして練習会や大会を運営します。
はじめに
計セン,つまり計算センターは,かなり謎が多い(と思われている)パートです。なんか オタク PCが得意な人たちがぱちぱちやっている部署と思われがちですが,実を言うと大したことはやっていません。
今回の記事を読んだあなたは「計センってなにやってるの?」に大してなんらかの答えを持つとともに,みなさんの日々のラップがどのような技術によって作られているのかをなんとなくわかっていただければいいと思っています。
スタートリストの作成
計センの仕事のうちとても重要かつ早めに動き出さなければいけないのが「スタートリストの作成」です。
エントリーリストと呼ばれる,名前,所属,クラス,Eカード番号が一緒になったものをクラスごとにまとめ,ランダムに並び替えることでスタートリストを作成します。Excelには RAND()
という関数があり, 0以上1未満の乱数が生成されます。その値を元に並び替えると,ランダムなスタートリストを作ることができます。
そこから得たデータに対して,行ごとに色を変えたり,数字を読みやすいフォントに変えたりすると,一般的にみなさんがよく見る「スタートリスト」が完成します。
Mulka2のセットアップ
基本的には当日のすべての業務は Mulka2 というソフトを通して行います。これは的場さんという方が開発してくださった非常に優秀なソフトで,業務としては以下の通りになります。
- コース・クラス設定
- コース・クラスに応じたポスト番号を設定します(前日までにやっておくことも多い)
- 機材設置・ネットワーク確認
- 試走・ポスト確認
- 大会によっては競技者がレースをする前に前走をして,ポストが正しく動いているかどうかを確認します
- 当日参加者の入力
- 基本的には手打ちです。当日参加が多いと大会会計としてはうれしいですが,計センとしてはとても大変にはなります…。
- E-Card/SI-Cardの読み取り
- ゴールとか会場とかで読み取っているアレです
- バックアップ計時と参照したり,ペナだった人にはペナレポートを印刷したりします。
- 成績速報印刷
- さいきんはWebでも速報が出るようになりましたが,紙の速報も味があっていいですね(特にセレクションなど)
- 出走管理・未出走者入力
- 表彰の準備
- 未帰還者確認
このへんのことが全部ひとつでできるのでとても楽ちんです。
以上が当日の業務で,あとはラップを編集してLapCenterに上げれば計センの仕事は終わりです。
ここまでで計センの業務についてはひととおり解説し終わったので,ときどき聞かれることについてちょっとずつ書いていこうと思います。
Mulka Cloud
前章のMulkaに関連して,さいきんでは Mulka Cloud というのができて,かなり業務が楽になりました。
計センのサーバがクラウド上にあるので,スタート,計セン,フィニッシュがすべて同じデータを参照できます。出走者・未出走者の管理,未帰還者確認などのデータが常にアップデートされるため,今まで紙やLINEで行っていたコミュニケーションがかなり省略されることになりました。
Webで速報や順位をリアルタイムで出せるようにもなったため,オリエンテーリングの楽しさといった部分にもかなり貢献しています。
SIカードとEカードの違いについて
これはかなりよく聞かれるのですが,まとめるとこんな感じです。
- Eカード
- それ自体が 計時機能を持つ
- スタートユニットを上げたらストップウォッチが始まる
- ユニットにパンチするとラップタイムが押される
- そのうち電池が切れる
- SIカード
- それ自体が 計時機能を持たない
- ユニットにパンチすると通過時刻が押される
- ユニットに時計合わせが必要
- 電池が切れない
- タッチフリーSIは切れる
だいたいこんな感じです。いちばん大きな違いはそれ自体が計時機能を持つかどうかで,あとはそのデータを使ってスタートからゴールまでの差分を算出します。
計時の信頼性について
「縁の下の力持ち」的な立ち位置である計セン業務は,多くの人にとって「うまくいっている」ことが前提です。しかしながら,人が運営している以上我々も完璧ではないので間違いは生じてしまいます。競技不成立となるのが最も悲しいことですが,そうならないような対策はとっています。
バックアップ計時
ステーションがうまく電子的に通過を記録できなかったときのためにバックアップ計時が存在しています。Eカードにおけるバックアップラベル,SIカードにおけるバックアップ欄です。
またそれ以外にも,主にビデオカメラによるバックアップ計時を行っています。フィニッシュ通過時刻を映像として残しておくことで,仮に電子記録がうまくいかない場合でも,競技者ごとのレース時間が算出できます。
ぶっちゃけ計センってむずかしいの?
我々としてはむずかしくはないと思っています[要出典]
ただしある程度パソコンやExcelに詳しくないと仕事ができないので,そんなにだれでもできる仕事ではないと思っています。設置も撤収もないし雨風に晒されず会場にいられるのはそこそこいいところなのかな,とは思っています。
計センやってて楽しいことは?
今までの長ったらしい文章はすべてこれを書くための前座です。そこそこスキルを活かせるとか色々な理由はありますが,最も大きいのは 誰よりも早くレース結果を知れる ことですね。セレ通過ボーダーを知るのも,優勝候補者のペナを知るのも,優勝確定までの時間を知るのも,優勝者を知るのも,いちばん早いのは計センである我々なのです。
そこが最も楽しいし,それを競技者だけでなく観戦者にも伝えて,オリエンテーリングというスポーツが公平かつ楽しくあるようにするための基盤を技術で支えるのが,計算センターであるといえます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。