オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

本番での大失敗を防ぐ

 初めましての人も多いと思います。アドベントカレンダー12月2日分を担当します、広島オリエンテーリングクラブ(広島OLC)の伊東瑠実子です。 

 物心つく前から家族で広島OLCに加入しており、今もこの所属名で大会に参加することが多いですが、現在は関東在住の社会人ですさらに来年から関東圏外へ転勤するので、所属名が変わります。

 あっという間に12月に入り、夏に勢いで申し込んだ『煩悩滅却 百八式』まで残り1ヶ月を切りました。果たして走りきれるのか、戦々恐々とする日々を送っています。何故私は百八式を選択したのか・・・。

 

 それはともかく、本日のテーマ「本番での大失敗を防ぐ」について。

  この記事での『本番』という言葉は、インカレや全日本大会、海外大会など自分の最大限の力を発揮したいと思う大会を指します。大学生を中心に、普段の練習で滅多に起こさない大ミスを何故か本番で起こした経験のある人はいるんじゃないでしょうか。 

 私は大学時代に東大OLKへ所属し、大学卒業(=大学院入院後)から今年3月までの2年間、東大OLKでコーチを務めていました。この間、大学生選手にとって思い入れの強い舞台・インカレで後輩を見守ってきましたが、普段だったら起こりえないミスを連発する、非常にもったいないなと感じる光景を目にしまてきました。一方、吹っ切れた面持ちでレースに臨んだ選手が、周りが予想しなかった好成績を果たす場面にも何度か遭遇しました。

 確かに体力トレや直進・コンピなどの技術練習も大事です。それと同時に、本番で良いパフォーマンスを発揮するために緊張しすぎないこと、レースに対して思考を集中させるといった心理的要素の重要性も見過ごせないと思います。

 

 ・・・とか偉そうなことを言っていますが、実は私もレース前に結構緊張して、頭の中がパニックになり、本番で大失敗(ランク3すら把握できないとかポストスルーとか)した経験ある、メンタル弱めの人間です。それでも、大学1年から4年にかけて徐々に本番に慣れてたこと、かつ、JWOC2013、WOC2015という、日本よりも強いストレスがかかる環境でレースを経験したことにより、少しずつ本番への対策を打てるようになりました。実際、インカレロングでのミス率などは結構低くなりました。(1年次から順にミス率23.5%、12.2%、6.9%、7.2%)

 今日の記事では、本番で6割の力しか出せないと感じる選手が8割くらいの力を発揮するのを目的として、本番での大失敗を防ぐための対策を3つほど書きます。本題に移る前に前提条件を伝えておくと

  • 対象:メンタル弱めの人、主に大学生を想定
  • 背景:可愛い後輩へエールを送りたいから
  • 論拠:スポーツ心理学を専攻していない筆者の経験談

 したがって、大事だけど専門的なテーマ(緊張とパフォーマンスの逆U字曲線、下のグラフみたいなもの、ルーティーン動作)、実力を確実に上げる方法論などは本記事にはありません。それっぽく見せるためにグラフだけ載せときますので、あとで調べてみてください*1

 

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それでは早速本題に移ります。

 

 

①レース前に頭を使う場面を減らす

  オリエンテーリングという競技、レース中にかなり頭を使うので、せめてレース前は頭をフル回転させたくないというのが私の願いです。しかし、一般的な大会では

 自宅・宿泊先→競技会場→(選手隔離エリア)→スタート地区→スタート

と移動が続く。加えて公式掲示板の確認、ゼッケン・Eカードの受取、トイレ待ちの行列で待つなど各種タスクをこなす必要があります。このため、時間管理にかなり気を使います。かといって何も考えずぼーっとしていると、ウォーミングアップの時間がなくなる、スタート地区に遅刻ギリギリで到着、さらに酷いと焦って行動する中で、SIを山の中で落とすといった事態に陥ります。

 他に避けたい事態としては、予定を頭で追っかけているうちに、ふと「あれ今日、家の鍵を閉めたっけ?」といったレースと関係ない事に考えが及んでしまうこと。こうなるとレースに集中できません。

 なので、私はレース当日に可能な限り頭を使わなくてすむよう、下のような予定表を作成していました。WOC2015のミドルで、この時はミドル予選なし、決勝1本勝負でした。コース距離5.3km(登距離200m)で優勝設定時間33分

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 字が汚い。東大OLKでは、インカレ前に各自のバス・スタート時刻を書き込める予定表を配られますが、私はそれに加えてアップをする時刻や補給をとる時間、各種注意事項を入れたかったので、予定表を別途作成していました。

 プログラム発行後から大会前日までの約1週間で、こういった予定表をぱぱーと紙に書く、またはスマホで記録したものを印刷しておきます(スマホから紙に移しておけば、情報端末が使用禁止となる隔離エリアにも持参できます)。そして、当日はあれこれ予定を考えず、あらかじめ設定した時間進行に従って動きます。こうすることで十分にウォーミングアップの時間を確保しつつ、余計な思考に気を取られるのを回避します。

 

 

②不安要素を書き出す

 スケジュール表の作成ついでに、レース中の不安要素、すなわち本番で遭遇したら嫌だな~と思う場面をできる限り具体的に書き出します。それに合わせて、取るべき行動や思考パターンも書く。簡単な例としてはこんな感じ。

  • 「Eカードを落としたら」→「ひとまず直前のポストまで戻る」
  • 「逆正置したら」→「深呼吸してからコンパスを振り、リロケする」
  • 「10分後スタートの〇〇選手に追いつかれたら」→「あの人はたぶんツボるので、無視するのが得だと考える」。

 本番でもあらゆる場面において冷静に対処できる、本当の意味で心臓の強い人には不要な準備ですが、あいにく自分はそういった力に欠けていました。なので、想定しうる場面について切り替え方法をあらかじめ準備しておきます。すると、動揺しやすい人あっても、失敗やレース中に不意におそってくる不安に対して、想定の範囲内であれば気持ちを簡単に切り替えられます。

 このように書き留めた内容を、大会会場や隔離エリアなど他の選手に目がいきがちな環境などで見るのもよいと思います。そうすればきっと、メイド服を着た男子選手・コーチの膝枕の上で寝ている外国人選手がいても惑わされずにすむ、はず。

 

 

③それでもレース中にミスしたら 

 あらゆる手を打っていたとしても、レース中にはだいたい何らかの失敗をします。ミスした際の対処ワーストは、ノープランでただスピードを上げてミスを取り戻そうと失敗することでしょう。

 オリエンテーリングは、1回のレースで複数のレッグをこなします。各レッグで課題設定は異なりますが、それでもやるべき動作(コンパスを振る、ルックアップ、マップコンタクト、プラン、ナビゲーションの実行)は共通しています。本番でミスしたら、その動作のどれかが不十分になっている可能性があります。なので、ミスを手がかりにして不十分な箇所を見つけ出し、そこに意識を払っておけば、次のレッグ以降のミスを減らせるはずです。

 自分の過去例を挙げるならば、インカレロング2014の2本目のロングレッグ(5→6)。落ち着いた状態なら見えたであろうベストルートに気づけまず、無駄に登距離が必要となるルートを選択していました。沢底に降りて、等高線5,6本分の斜面を登る途中で、自分が失敗ルートを選んだことに気づき、あああああああミスしたばかばかばかばかばかと考えてしまいました。

 でも、登りながら「地図上でルートを探す視野が、通常より狭くなっている」と無理矢理総括し、6→7以降のレッグでは意図的に視野を広くして大回りのルートを必死で探しました。この安全運転方針は結果的に難易度の高いレース後半でのミスの抑制につながり、致命的なミスが続出することは回避できました。

 これを私は『転んだらただでは起きるな』理論と呼んでいます。最後まで諦めるなという熱い台詞にイマイチぴんと来ない方、こんな貪欲なキャッチフレーズを使ってみてはいかがでしょうか。

 

 

終わりに 

  本番で大失敗を回避するのって難しいと思われがちですが、直前期間だけでも準備して本番に臨めば、実力を10割発揮とまでいかなくも大失敗は防げると思います。

 この大失敗のない無難なレース、つまらない響きがありますが達成すると割と楽しいです。あと、こういう無難なレースって、自らがちゃんとオリエンテーリング技術を身につけてるんだという確たる自信にもつながります。

 そして、本番で大失敗をしなかったことを自分の中でちゃんと評価すること。これこそが、たとえ忙しくて満足に練習できない環境の中にいてもオリエンテーリングを楽しむコツだと私は思います。

  

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 よし書き切った。ワイン飲みにいこう。

 

 

 

*1:緊張とパフォーマンスの逆U字曲線を含めて調べたい方には、村越真(1998)"How to improve your orienteering"や櫛部静二著(2015)「基礎からわかる!中長距離走レーニング」がおすすめです。