オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

生死を掛けたナビゲーション

 

1.初めに

 

この度、執筆のお声掛けを頂いた鈴木篤と申します。

 

しばらくオリエンテーリングの世界から遠ざかっているので私を知らない人がほとんどだと思います。

自己紹介をさせてもらいますと、

早実OCから早大OC18期(1991年入学)と経て、主な戦績はインハイ個人及び団体優勝、インカレ新人王、JWOC代表

などで、現在46歳になります。

高校時代は高連幹事長を務めて高校生による一般大会「高連競技会」を立ち上げるなど、OL界独特の繋がりやオリエンティアの皆さんが大好きでしたが、インカレ団体戦で2年連続でひどい結果を残してしまったのと、ずっとやってきた登山でヒマラヤに行くためにOL界から離れてしまいました。

 

OL界には十分な恩返しが出来ていないことが心の重しとして残っていましたが、現在生じているオリエンティアの皆さんとの接点がそこにつながれば、と願っています

その接点もあって、今回、書かせて頂くことになりました。

オリエンティアの皆さんのどなたかの心に、少しでも届けば幸いです。

 

 

2.オリエンテーリングとアドベンチャーレースとアルピニズムと

 

私はオリエンテーリングを始めるに当たっても精神的なベースは子供の頃からの登山にありました。要は自然が好きなのです。

そして、早稲田実業高校と早稲田大学ではオリエンテーリングだけでなく山岳部にも属し、学生時代にヒマラヤの8000m峰無酸素(登頂していませんが)、ヨーロッパの北壁、シベリアや南米などレースも入れれば約20回の海外遠征を行い、現在もアルパインライミング(「より高く、より困難へ」を掲げるアルピニズムという精神に基づく登山)を続けています。

大体、こんな感じです。

 

 

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ヨーロッパアルプスの6大北壁の一つ、イタリアはドロミテのドライ・チンネにて

 

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鹿島槍北壁 北アルプス鹿島槍ヶ岳が持つ北壁で、高度差は900m。赤が登ったライン。

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谷川岳一ノ倉沢烏帽子沢奥壁  世界で最も多くの死者(900人以上)を出していることで知られる谷川岳の岩壁の一つ。赤丸が私。青丸は私のザイルを押さえているパートナー。緑丸は史上数回しか登られていない歴史的ルートに挑む知人の3人。

このアルパインライミングに加えて、多種目・長距離・男女混成のアドベンチャーレースを極初期に始め、多摩OLの田中正人さんと一緒にプロチーム「EASTWIND」を創設して海外のレースを走ってきました。

最長で720㎞を13日間掛けて踏破した南アフリカでのレイド・

ゴロワーズ(11位)、最高順位では4位に入ったニュージーランドでのサザン・トラバース(3日間で約300㎞)などがあります。

他に国内ではハセツネ5位、OMMストレートロング2位などです。

 

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去年初めて国内で開かれたワールドシリーズ戦にて。250kmを完走してのゴール。最後はMTBセクション。 後ろの旗はチームで掲げている「毘沙門天」と「懸かり乱れ龍」。

また、テレビ朝日で働いているため、ディレクターとして長く担当していた情報番組「スーパーモーニング」で立ち上げた「スパモニ探検隊」というチームでは、仕事とは別に2008年からアドベンチャーレースに復帰し、競技人口を増やすことと競技自体の発展に貢献することを目指しています。

「スパモニ探検隊」の主催は12年目になり、オリエンテーリング界の優秀な人材に助けられてシリーズ戦で年間優勝などもして、大会への参加は国内最多の延べ300人以上となっています。来年は海外レースにも復帰します。

 

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「スパモニ探検隊」のメンバーたちと。通常は3人で1チームとなる。この時は偶然山の中で一緒になったので皆で降りてきました。

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山口県日本海側でのシーカヤック。大海原にも漕ぎ出せます。個人的にノンサポートで駿河湾40㎞を横断したことも。

同時に、雪山での装備や歩き方から学ぶ雪上訓練をはじめ、アルピニズムを継承してくれる後身の育成も行っています。

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北アルプスの雪稜を夜に登る。雪崩への警戒でやることもあるが、この時は通常3日程かけるルートを一日で登りきるため。左右はすっぱりと切れ落ちている。

 

3.お伝えしたいこと

 

肝心のこの場をお借りして伝えたかったことですが、その要旨は、このカレンダーの第1回目、12月1日の「オリエンティア軍団とは」がいきなり見事に伝えてくれました。

私なりにまとめれば、

 

「優秀なオリエンテーリングの技術と人材を外の世界でも活かし、相互の発展を目指す」

 

という考え方こそ、私がオリエンテーリング界を見ていて感じているものです。

オリエンティア軍団広報部長様、ありがとうございます!

 

 

と、ここで終わっては、声を掛けてもらったのに申し訳ないので、盛り上げるためにも?少し「おそらく普通の人は書かないであろうこと」を書かせて頂きたいと思います。

身の回りにこういう人間がいる人は少ないでしょうから、珍しい生き物を見るくらいの気持ちでお付き合い下さい。

 

 

 

4.自然とどう向き合う人生を送るか

 

オリエンテーリング…。

これを楽しむオリエンティア

「自然好き」

「競技とかで追い込むのが好き」

なことに間違いないことでしょう。

 

では、もう少し発展させて

「本当に死にかねないほど自然の中に浸りたいですか?」

「本当に死にかねないほど自分を追い込んでみたいですか?」

と問われたら、いかがでしょうか…?

 

ふもとの町から空に浮かぶかのように見える雪を抱いた大きな山を見上げる時、「きれいだな」で終わるのか、

垂直にそそり立つ大岩壁や空気を切り裂くように水を落す巨大な滝を見上げた時、「すごいな」で終わるのか、

全てを白い世界に埋めてしまう豪雪を見た時、「豪雪地帯に住む人は大変だな」で終わるのか。

 

そうではなくて、現実に自分が対峙する実態として、

大きな山に体ひとつで浸りながら生きようとあがいている自分を想像し、

巨大な岩壁や滝にどうすれば登れるのか目を凝らし、

命などどこにも感じられないような雪だけの世界に全身全霊で突っ込む恐怖に耐えられるのか。

 

前者と後者では、文字通り人生を左右するほどに大きな違いとなります。

どれほど自然に浸るのか、どれほど自分を精神的肉体的に追い込めるのか、どれほど命というものをリアルに感じるのか、それはまさに「生き方」や「生きざま」に直結していくのです。

 

私はそんな世界に少しばかり足を踏み入れてきました。

高校生の頃から一人で冬の北アルプスなどに入っていたので、「行ったら死ぬかもしれない」という漠然とした不安と向き合ってきましたし、

岩壁にとりつくためにいつ雪崩が襲ってきてもおかしくない谷に入れば、「数分後には自分は生きていないのかもしれない」と考える、およそ日常では体験しない感覚に包まれます。

状況が切迫する中で「鈴木、俺と一緒に死ぬか?」と叫ぶ先輩もいましたし、暗闇と雪しか見えない急斜面で仲間と「生きて還ることを優先しよう」と安全策を採って行動を中止し、仕事を休んでしまったこともあります。

一方で「鍛えたきたもので人の命を守れるなら」と救助活動にあたったこともそれなりにあります。

 

そうして過ごしてきた約30年の中で、これまで死んでしまった仲間たち、救助出来た命の数は、おそらく普通に生きていたのではまず経験しないものでしょう。

普通に「死」というと、「老衰」「病死」「不慮の交通事故」「自殺」といったところでしょうが、アルピニズムの中には、決して望まないにしても明確に「自ら挑む中での死」があるのです。

 

「自分の生命が両手の指にかかっているこの遊びの重大さが私にはわかった。

それは一つの発見であった。このことを意識すると、私はもう一度うまれてきたような気がした」

(ガストン・レビュファ)

 

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冬の岩壁を登る。凍傷を避けるため手には手袋、岩が凍っているため足はアイゼンをつけるため、非常に困難な動きを強いられる。

5.オリエンティアのすごさ

 

この山の話の流れがどうオリエンテーリングに結びつくのかというと、簡単です。

オリエンティアの持つ能力はこうした世界に挑むベースになるのです。

また、オリエンテーリングの技術をすれば山での遭難の危険を大幅に減らすこともできます。

要は、オリエンティアはものすごい能力を基礎から丁寧に身に着け、実践してきたエリートなのです。

今も、オリエンティアと一緒に山に入ると、その素晴らしい技術と体力に感心しています。

 

これらから、私はオリエンティアの皆さんにそれを自覚してもらい、その優秀な技術をもってして様々な世界に踏み出してもらいたいのです。

 

12月1日で紹介された「オリエンティア軍団」はスカイラニングの世界で活躍しています。

スカイランニングがオリエンテーリングに活かせるというのはもちろん、相互の発展もうたっています。

 

この様に、

「自分は〇〇だけ」と自らの可能性を狭めることなく、

そして、「自分が楽しめればいい」という私的な観点ではなく、

「自分が役立てるなら」「その世界の発展に貢献につながるなら」という公の観点から広く見てほしいのです。

 

 

余談ですが、かつて母親が私に「あなたがいたらみんな死なずに済んだのに」とこぼしたことがあります。

私の学んだ早大山岳部では、1992年に先輩二人と同期一人の三人が壮絶な吹雪によってルートを失い命を落とす遭難がありました。指揮をとっていた別の先輩も贖罪のように登り続けて6年後にヒマラヤで亡くなったので、ある意味、この遭難での死者の一人です。

また、1997年にヒマラヤの8000m峰に挑んだ際の隊長は、登頂後に戻るルートを見失い、行方不明となって今も見つかっていません。同行していた仲間が「ルートはこっちです」と言っても隊長は違う方向へ向かっていったと言います。

 

山岳部の遭難の時は私はヒマラヤを目指すために退部した後でしたし、ヒマラヤでは私は第一次アタック隊で隊長は二次隊と、双方とも私は居合わせていませんでした。

せめて地図読みをやってきた私がいれば、ルートを見出したり、説得したりで違う結果になったのではという思いからの、母親の言葉なのです。

 

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命が掛かるだけに、もう会えない仲間も多い。だが、彼らが望むのは残った者がやめてしまうことではない筈。

 

警察庁の統計では、平成30年の山での遭難のうち道迷い遭難は4割弱を占めます。

他の態様に分けられている「滑落」「転倒」「疲労」など様々なカテゴリーも、場合によってはトリガーは道迷いだったかもしれません。

それも、これらの多くは、クライミングと呼べる困難な登山というより、ハイキングの延長である一般登山での遭難がほとんどでしょう。

一般登山者が基本的な地図読みや、意識としての道迷いへの備えさえ持っていれば防げたかもしれない遭難です。

「全体の4割」のその数は1,187人で、死者数は統計には出ていませんが100人近いと思われます。

 

オリエンティアの技術や、それを伝えてきた文化をもってすれば、多くの命が救えると信じています。

オリエンティアはすごいのです。

 

一方で、私は「オリエンティアの持つ能力はこうした世界に挑むベースになる」と書きましたが、

ステップとしてふさわしいと考えるものに、アドベンチャーレースがあります。

 

 

6.アドベンチャーレースの利用

 

アドベンチャーレースは、そもそもネーミングが間違っています。そこには真の意味での冒険要素がある訳ではありません。「アドベンチャー」という言葉を借りて、そう見せているだけです。

世界のアドベンチャーレースで活躍するニュージーランドでは一般的に「マルチスポーツレース」と呼んでいるようです。こちらの方が実態に近いでしょう。

 

例を挙げれば、アドベンチャーレースではよく岩壁の懸垂下降などのシーンを「どうだ!すごいだろう」とばかりに見せていますが、懸垂下降の本当の危険はロープをセットする支点の構築にあります。

自然の中ではこの支点を木や岩、あるいはハーケンやボルトといった人工物を自分で岩壁に打ち込むことで設けるため、もしこれらが抜けたり折れたりすれば全体重を預けるだけに相当の確立で死に至ります。

ですが、アドベンチャーレースでは主催者が確実にセットしたロープを使うだけなので、何ら恐れることはありません。器具をセットして正しく使うだけです。

なので、アドベンチャーレースしかやらない人で実際に支点の構築をやったことがある人はまずいないでしょう。

他にもマウンテンバイク、カヤックなどがありますが、「冒険」ではなく「競技」なので、失敗すれば死んでしまうような場所や荒れた海に出ていくようなことはまずありません。

やる気さえあればそのハードルは決して高くないものなのです。

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アドベンチャーレースのラフティングセクション。凄そうに見えるが、後ろにはプロガイドが乗って安全にコントロールしている。

一方で、アドベンチャーレースには他の競技にはないものがあります。

「男女混合」「年齢不問」「多種目」「数日に亘る長距離行動」などがその最たる特徴です。

これらは、私は「自然の中で人が行動するのに必要なもの」と思っています。

年齢を問わず男女が協力して、様々な障害を様々な技術で乗り越えて、何日も進み続ける。

これは人類の大移動グレート・ジャーニーか、あるいは軍隊の長距離偵察行動かというくらい、稀有な行動です。

 

私は多くのアドベンチャーレーサーを見てきましたが、この競技を行うに当たっても、即戦力となるのはオリエンティアでした。

競技なので、いつでもリタイヤ出来て、救助も呼べることを利用して、追い込むことができるアドベンチャーレース。

これを利用して、是非、更なるものを身に着けてもらえたらと思うのです。

 

 

ここまでをおさらいします。

 

オリエンテーリング

・地図読み

・ランニング

・山走り

・競技的思考

を身に着けたら、そこからの発展として、

 

アドベンチャーレースで

・年齢も問わない男女混合のチーム行動

・数日に亘る長距離行動

・海や川など多彩な自然に対応できるカヤックMTBといった様々な技術

を経験していき世界を広げます。

 

ここまで来たら、もう「競技」とか「ルール」とかを飛び出せるのではないでしょうか?

そして、この系譜の先には何があるでしょうか?

冒険や探検も素敵ですが、ここには学術的なものも必要になります。

次の段階として、私のお勧めは、アルピニズムです。

 

 

7.アルピニズムへ

 

私の早大山岳部の同期で高校時代にラグビーで花園まで行ったほどのラガーマンがいましたが、なぜ山の世界を選んだのか問うと「命の掛かることをやりたかった」と短く答えました。

海外に一緒に行った仲間は自分たちを称して「死にそうな目に遭って、生きて還りたい人間」とまとめています。

私の好きな言葉としては「そこには死がある。従って、より大きな生がある」というものもあります。

 

山を語るのは、もう悩ましいだけなので、安直にウィキペディアを引くと、

 

日本で「アルピニズムという言葉を用いる場合には、「より高く、また、より困難な状況・スタイルによる、スポーツ登山を志向する考え方・発想」として用いられている。(中略)自称・他称を問わず、アルピニストを称していたとしても、そこにアルピニズムの精神が見られなければ、それは虚像に過ぎない。アルピニズムには、ある見方をすれば「純粋な」、また違う見方をすれば「ストイックで偏狭な」、独特で深遠な精神世界が存在している。

 

とあります。大方賛成です。

考えるのも面倒くさくなると、「山よ、お前は美しすぎる」と溜息まじりに叫んで終わらせますが、この言葉が題名になっている写真集があることを最近知り、「みんな同じだな」と納得しました(笑)。

それが何であるかを表現しきれるだけのものを持ち合わせないので、事象としてお伝えできるものを挙げます。

 

・どこの山域のどの山か、どのルートから登るのか、どのようなスタイル(尾根、岩壁登攀、沢登り、アイスクライミング、スキーなど)なのか、どの季節に登るのかなどあり、地球規模で楽しめるので、一生涯で楽しみつくすことは絶対にできません。

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こんな清流を泳ぎながら泊りがけで遡っていくことも。水に溶け込んでしまいそうになります。

・私が創設メンバーのチーム「EAST WIND」の田中陽希とNHKエンタープライズの国沢五月さまの活躍もあって、深田久弥氏の日本100名山が特に有名です。

この100名山を登った人は大勢いますが、冬にすべてを登った人は現在1人しかいません。ですが、この第一人者も困難な場所では山岳ガイドを付けたお客様として登っています。残念ながらアルピニズムと言うのは難しいでしょう。よって、すべて自力で冬も登った人はまだいないと言っていいと思います。

 

・8000m級の高峰14座すべてに登った人間はまだ世界で31人しかいません。日本人は1人だけです。酸素ボンベを一度も使わない完全無酸素となると数人しかいません。ちなみに日本人で達成した竹内洋岳氏の妹さんはオリエンティアでした。

 

・困難な目標が出来ると、命に関わるので、他のことが些末でしかなくなります。私の先輩は「どんなに生活が苦しくても自殺とか考えている暇もない。山をやっていて良かった」と言っていました。名言です。

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井上靖の「氷壁」で有名な穂高岳滝谷。岩がもろいのでただ登るだけでも恐ろしく、日々の悩み事など思い出している余裕もありません。

・同様に「命」や「生きていること」をかみしめるようになるので、日々普通に生きられることに感謝したり、何を食べてもおいしく感じられるようになります。

 

・歴史的な人物の遭難や、かつて事故があった場所や事例などを研究するので、必ず「死」を意識するようになります。時には知人や友人の死もあるでしょう。それがもたらす功罪は人それぞれですが、得難いものだと思います。

 

大きく、美しく、荘厳な自然の中で、これらを学べるのです。

安全に登りきるため、冬の北アルプスや富士山を夜間に登ることもありますが、星空や暗闇の中、雪の斜面をひたすら高みへと登るのは、もう、自分が人間であることも、ここが地球であることも忘れそうになります。

あとはもう、その人の持つ個性による方向性でしょうか?

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自由が故に、個性も出る。何を目指すかは、経験的には、必然に見えてくると思っています。

 

 

8.その先へ 

 

命が関わったところまで来ると、もうその先はどうなるのか、分かりません。

経験や技術の継承なのか、後身の育成なのか、社会やその世界への貢献なのか、果ては精神世界なのか。

むしろ、そこからがその人らしさが出て、面白いのかもしれません。

 

私などはまだまだですし、何かを極めた訳でもありません。

それでも、体験し始めている一つに歴史探索があります。かっこよく言えば「時間の壁を越えた」活動です。

私は専門家でもありませんが、いずれも自然に呼ばれるようにして、これまで下記のような調査をやってきました。

 

・鹿児島県の沖永良部島で3960±40年前の縄文人全身骨を発掘

約9㎞と日本第二位の長さを誇る大山水鏡洞という洞窟の最奥部に骨があるとの情報に接し、探検隊を2回編成、行政の許可も得て学者2名と共に現場から発掘、搬出に成功する。埋葬でない縄文人の全身骨としては全国3例目。大山水鏡洞人として日本考古学会で報告される。

 

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発見した人物は4000年前、洞窟の入り口が崩壊したことで閉じ込められた男性だった。

・初の洞窟祭祀遺跡「鳳雛洞第4洞口遺跡」を発見

上記の大山水鏡洞人の発掘の際、別の洞窟で骨を見たとの情報に接し、これを調査。平安期の人骨を発見する。同時に完全に洞窟の中で土器や骨を燃やして割るなどの祭祀が行われていたことが分かる。遺跡調査としては初の3次元測量も行われ、日本考古学会で報告される。私の当時小学生の長男も発掘に参加。

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洞窟内での調査に参加する長男。時には水の中を潜って向こう側に出なければならないため、必死(笑)

・初の「抜け穴」機能を持つ城跡地下トンネルの全容解明

青森県弘前市にある石川城の地下に城内から外へと出られるトンネルがあり、敵をまどわすためか複雑に迷路状になっているその全容を測量と模型によって明らかにする。城郭構造の専門家の日本大学の教授によるとこのような「抜け穴」機能を持つトンネルが発見された例はないとのこと。日本城郭学会に報告するも「地下については議論の下地がない」と拒否される。

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ある日の探検隊。学者3名、測量隊2名。学術的にやらないと公式な記録にはならない。

・天草島原の乱の国指定史跡「原城」にて初の水源確認 地下トンネルの測量調査 隠し部屋の発見

天草四郎で知られる天草島原の乱で、一揆勢3万7千人が全滅するまで戦った原城は、それまで井戸が一つも見つからず、水源が分かっていませんでしたが、城の中腹に空いていたトンネルの調査を実施し、水源を確認。また、埋められた井戸跡も確認。一揆勢が落城直前に隠したかったものがあるとみて周辺を調査の結果、岩で埋められた地下の隠し部屋を発見。今後、調査の予定。

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隠し部屋で見つけた1600年代初頭に作られた唐津焼の大皿の一部(人間国宝級の人物が鑑定)。 天草島原の乱と時期が見事に一致し、この隠し部屋を使った人物が限られてきた。

 

静岡県最古着工のトンネル「山田隧道」の初確認。行政も確認。

仙台市地下に眠る4㎞のトンネルの調査

新潟県南魚沼市黒又沢の奥に眠る「赤い鉄橋」の現状と廃棄の背景を調査

 

他にもまだ公表できませんが、謎の城跡の調査や、記録にない謎の坑道の調査などを続けています。

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2017年に発見した人骨の一つ。行政に連絡し、学者に来てもらい炭素14測定などを行う。

オリエンテーリングで地図読みと山を自由に走ることを身に着け、

アドベンチャーレースで仲間と共同して様々な技術で限界まで追い込むことを知り、

アルピニズムで命の掛かったことをやってきた自分が、

歴史の中で人知れず死んでいった人たちから呼ばれ、未発見の人骨や遺跡にたどり着いて、そこに光を当てる役目を担うことになったと、今は考えています。

 

そう考えないと、専門家でもない私が、日本の歴史にその名を残す3万7千人が皆殺しにあった戦いの場所、国指定史跡で新たな発見をし、今後も核心に向けて調査していけるたった一人の人間になるなどといったことが、理解できないのです。

 

オリエンテーリングから始まった私の人生のナビゲーションは、今、私自身がとても楽しめるものとなっています。

自らの体験をもとに「同じことをやりなさい」と押し付ける訳ではありません。

ただ、「こんな可能性がありますよ」と示させて頂きました。

 

今、「スパモニ探検隊」のもとには多くのオリエンティアが来てくれて、アドベンチャーレースを通して多様な価値観に触れ、

雪山に登り始めるメンバーも出てきています。

若い彼らがそれらに触れて、今後どういった道に進むのか、心から楽しみです。

 

「自分も新たな世界に踏み出したい」と欲する若者がいましたら、是非、チームに来て下さい。

心より歓迎します。

 

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12月14日撮影の「スパモニ探検隊」。オリエンティアの若者がいっぱいです。