オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

リレーで勝つために/インカレスプリントの提訴の件

リレーで勝つために

 

こんにちは、トータスの堀田です。Advent Calendar 17日目を担当します。

はじめに簡単に自己紹介をします。オリエンテーリングを始めたのは東海中高、次いで東大OLKへと進み、現在大学OB 5年目です。インカレでは個人戦ミドル6位、団体戦2位が最高位です。全日本ではジュニアで優勝、シニアではスプリント3位、ミドル優勝、ロング6位。国際大会はJWOC2008、AsOC2010、WOC2014、WUOC2016に出場しています。

 

さて、何をネタにしようと思って色々考えたのですが(インターハイのこととか、4年間やったオフィシャルのこととか)、オリエンテーリングのリレーにフォーカスしてみることにしました。リレーは昔から大好きで、それが高じてWOCではリレー1本走るためにイタリアまで遠征しました(嘘です、個人戦では選ばれなかっただけ)。上では敢えて書きませんでしたが、国内2大リレー大会と言える7人リレー、全日本リレーで昨年今年と連覇したりと実績十分です(?)。

 

今回はリレーで勝つためにどんなことをすればよいのか、戦略から走り方まで思うことを書いてみようと思います。

 

1.メンバー集め

当たり前ですが、これが最重要です。7,8割はこれで決まります。

たとえ自分一人がどんなに早くても、リレーでは勝てません。逆に誰かがコケても他のメンバーがカバー出来れば勝てる。そこがリレーの難しいところであり、面白いところですよね。

「自分が順位を上げなきゃ」と気負って走るのと、「ミスっても他のメンバーが何とかしてくれる」と思って走るのと、どちらが良いでしょうか。多くの人は後者の方が良いパフォーマンスが出せるでしょう。信頼できるメンバーとチームを組むことで、個人レースの内容にも影響が出てくると思います。それに、目標を共有してチームとして盛り上がってレースに臨む方が絶対楽しいですよね。そういうメンバーとチームを組むことでレース結果も、内容も、気の持ちようも、変わってくるはずです。

 

2.自分のオリエンテーリング特性を知り、リレーの戦術に生かす

リレーになるといつも早い人とか、逆にうまくいかない人とかいますよね。自分のオリエンテーリングの特性を掴むことで、リレーの時に意識すべきことが分かり、そして戦略にも影響してきます。

 

例えば自分の場合だと、以下のような感じでしょうか。

・足はそれほど速くない。下りやロードは遅いが、登りはそこそこ。

・プランやリロケートの判断は早い方。コントロールではプランのために止まるが、時間は短い。

・周りの人を利用してスピードを上げられるが、つられることもある。

・一人になると安定は取れるが、爆発的なタイムはなかなか出ない。

 

では、ここから考えられるリレー特性は?

・集団走を利用してよいタイムを出せるが、パターン振りに注意する必要がある。

・走る区間では集団に引っ張ってもらいたい。アタックや脱出では集団に利用されがち。

・登りや細かい先読みで勝負をかけるところを選べば、集団から抜け出せるかもしれない。

・一人で前を追っていくのは得意ではない。ミス待ちになる可能性が高い。

 

こんなところでしょうか。

 

実際、WOCのリレー1走では1番のパターン振りで遅れつつもギリギリで集団走に滑り込み、追うレース展開。ビジュアル後のパターン差で(集団ごと)ミスり、終盤の一気登りで集団の先頭に出ました。(最後はミスって遅れました)。昨年のWUOCのリレーは2走で、序盤で形成した集団でビジュアル前までは良いレースが出来ましたが、やはりパターン振りに引っかかり集団から脱落しました。

大体上に書いた特性通りのレース内容ですね。パターン振りで隣ポに引っかかるところは反省してほしい。

 

3.チーム戦略(走順)を考える

前項で出たようなメンバーのリレー特性に個人の希望も合わせ、走順を決めます。走順の決定には、テレイン特性、ライバルチームのメンバーや走順の予想なども非常に重要です。ここでは実際に走順を決めるときにどんなことを考えていたか、具体例を示してみます(チームで話し合ったことや個人の脳内妄想を含みます)。こうして戦略を考えておくと、自チームだけでなく周りのチームの動きも把握しやすく、想定から外れたときも落ち着いて対処できると思います。そして何より、戦略通りに勝てたときが気持ち良い。

なお、ここで挙げているのは戦略がうまくいった例。実際はこんなにうまくハマることは少ないです。

 

A.全日本リレーの場合

愛知県の2軍、ルーパーの菅谷さん・名大の南河と。1軍がまず勝ってくれるだろう、安定を狙う必要はないということで、失敗した時のことは考えず「一番いい順位を狙える」走順とすることに。チーム数が多く走順も読めないので特定のライバルは考えず。

テレインは公園なのでスピード重視のレースと思われたので、安定感はあるが3人では一番走力の低い菅谷さんを1走にし、集団走に乗ってスピードを上げ、遅れても無難に戻ってこられる作戦。2走は追うレース展開をやりたいという希望から南河。走力的にもエースとして攻めてもらう想定。自分は公園内の細かいナビゲーションの競り合いで勝負して逃げ切る、というイメージで3走に。

 

実際のレースは1走でトップ+3分と想定通り、2走で3位と予想以上に順位を上げてくれて、イメージ通りの展開(思ったより早く来てくれてトップとのタイム差を見ていなかった)。自分のレースはすぐ前にいた山梨を序盤のちょっとしたナビで離し、ミスって落ちてきた1軍を最後のパターン差で離す、ということで先に書いたような自分のリレーっぽい走り。

 

B.7人リレーの場合

トータスのライバルチームになると思われたのは、地域クラブだと京葉とルーパー。学生はKOLCと東大OLK。今年はレギュレーションが変わったので学生も女子2人。そして走区もエース区間が3,4走に、距離の短い所謂女子区間が5,6走に変更。

とはいえこれまでの7人リレーの様子からも、序盤は学生が引っ張り、地域クラブは女子区間で上がって来る展開になることは容易に想像できたので、それに合わせた走順を組むことになる。

トータスは女子2人実力者を揃えているので、大まかな流れとしてKOLC、東大OLKには4走まででいかに差をつけられずに5,6走で抜き去れるか。京葉は女子が稲毛なのがネックだが男子5人の実力で勝てるか、ルーパーは細川の不参加とやはり女子区間で勝負できるというイメージ。

7人リレーの常として、複数チームで出走する参加者は正規チームでの走順に制限があり、トータスの走順決めで影響があったのは増澤が2走までに出走するというところ。1走か2走か、というところで、増澤の走力に期待して1走に。これも7人リレーの常だが、長いレースだけに序盤での遅れはそこまで痛くないはず、万が一大きく遅れる場合を考えても2走よりは1走の方が取り返しやすいという判断。女子を1人序盤に出走させるということは裏を返せば、最終順位に影響してくる終盤に他のチームが女子のところ男子を使って一発逆転を狙える。

走順決めでもう一つ議論があったのは3,7走。前提として公園を会場としたリレーということで、走力勝負となることは予想される。当初は走力に定評のある結城を3走として1走での遅れを早めに取り戻し、5,6走でトップに立ち逃げ切ることを考えていたが、最後までもつれたときに他チームにプレッシャーをかけられるということで結城を7走に変更し、代わりに自分が3走に入ることとなった。

 

実際のレース展開はOK-infoの記事の通り。京葉が同じ戦略だったり、東北大や名椙が思ったよりも早かったりということはあったが、ほぼ戦略通りのレース展開だった。

 

(おまけ)C.インカレリレー

Advent Calendarの読者層を意識して、インカレリレーの戦略についても簡単に。

過去10年の結果を見ると、インカレリレーは先行逃げ切りがかなり強い戦略です。

出走チーム数が少なく大人数の集団になりにくいこと、学生の4年間ではリレーの経験が多くないことから、集団を利用してペースを上げて前を追うのが難しいのではないかと思います。また先行する側の方が精神的に余裕を持てるようにも想像できます。例年、コースの技術的難易度はそれほど高くなく(大ミスは出にくい)、ミス待ちで勝てるタイプのコースは組まれないことも影響しているかもしれません。

 

4.集団走の走り方(守り)

実際の競技中にどんな走り方をするのか、戦術的なアプローチの話に移ります。ここでは主に、走力で劣る場合にそれでも競っていくための方法論を書いていきます。

 

A.とにかく食らいつく

集団から離されたら終わりです。よほどの上級者でもなければ、たとえ最後尾でも集団にいるのと、一人でナビゲーションするのは、速度がかなり違ってくるはずです。

集団走をすることで得られるメリットは巡航速度の上昇だけではありません。追走者は先行者の脱出や進行方向、アタック動作を見ることが出来ます。先行者は追走者がいることで自分のナビに自信を持てるし、ミスしても追走者がリカバリーしてくれるから思い切って進むことができます。そしてアタック時にはたくさんの目でコントロールを探すことが出来ます。

少し話が逸れましたが、集団で走ることは巡航速度にもナビゲーションにおいても利点があります。逆に、集団から脱落すると大体の場合は離される一方になるので、多少体力的に無理をしても集団に食らいついていくべきです。もちろんじりじりと離されて脱落することはありますが、そうした時にも一人で離れるのではなく、同じく脱落する選手とうまく集団を形成していくことも重要です。

集団走を続けることで純粋にタイムのメリットがあるだけでなく、後の走順にも集団走のメリットを生かすチャンスを繋ぐことが出来ます。

 

B.相手を選ぶ

最初に集団走を続ける重要性を書きましたが、走者の競技レベルのバラつきが大きい場合は、並走すべき相手、追うべき相手の選び方も重要です。エントリーリストを見て並走したい相手、先行しておきたい相手を事前にチェックしておくことで、集団走を生かした走りができると思います。

あくまで私見ですが、一番良い相手は、自分より少し走力があるがナビゲーションでは勝てる走者、次いで走力差があまりなく自分よりナビゲーションが上手な走者ですね。

 

C.順位か、タイムか

リレー全体の結果を考える上で、序盤の走順においては順位よりもタイム差が重要となります。トップ+5分の3位と、トップ比+2分15位のどちらが良いか。当然後者ですね。前項とも重なってきますが、集団の最後尾で前にたくさん走者がいるのは、特に1走の走りとしては決して悪いものではないと思います。だから集団からは離れてはいけない、というわけです。

逆に、終盤の走順ではタイムよりも順位を意識した走りが求められます。どんなにミスをしてタイムが遅くても、他チームより前で帰還することが重要。後続に追いつかれない限り、並走者と集団でミスをするのもそれほど問題にはならないです。特にアンカーの仕事は一人でも前の走者を抜き、1秒でも他チームより前で帰ること、これがすべてです。

 

5.集団走のコツ(攻め)

前項はいわば、集団走における「守り」の走りについて書きました。今度は逆に、「攻め」の走り、並走者を出し抜き、集団を引き離す方法について語っていきます。

 

A.走力で引き離す

単純ですね。走力で勝っている場合には有効です(当然)。しかし、タイミングを選ぶことで、走力差のあまり無い相手に対しても使うことが出来る方法だと思います。

たとえ引き離しても、姿が見えていると追う側は楽になるので、少し見通しの悪い場所や、視野が大きく変わる場所を使うのが良いです。追う側に一気に引き離された印象を植え付けられます。

あとは、自分の特性に合わせて引き離すタイミングを選ぶことです。登りが得意なら登りで、下りが得意なら下りで勝負をかけて一気に引き離したいところです。

 

B.ナビゲーションで出し抜く

相手より良いルートを選ぶこと。手続きの多い場所や難しいアタックでスピードを上げること。コントロールからの脱出を速くすること。数秒の差でも、相手を引き離すきっかけになる動作です。やってはいけないのは、勝負するポイントでミスをすること。ミスって逆に引き離されては馬鹿馬鹿しいので。そのために、少し先読みすることが大事になってきます。余裕があるときに先読みして勝負するポイントを決め、プランをします。

 

C.一旦後ろにつく

私が良く使う方法です。実力差のない相手を引き離すときには、一番有効な布石だと思っています。

前を走っている側は後走者よりナビゲーションの負荷が高い、要は余裕がなくなるわけです。後ろにつき、相手のナビゲーションに引っ張ってもらうことで先読みの余裕を作り、狙ったところで勝負に出ることが出来ます。先行する走者が悪いルートに行ったり、ミスってくれることもあるので、後ろについてしっかりナビゲーションしているだけでも前に出られる時もあります。こういう時、相手は次のプランやナビゲーションが出来ていないことが多いので、このタイミングでスピードを上げて引き離したりします。

 

実際のレースでは、上記の方法を組み合わせて並走者をうまく出し抜いたり、引き離したりしていきます。

例えば、全日本リレーの15→16では、14→15の道走りの間に赤ルートが早いことを読んでいました。14→15のアタックで愛知1軍の松井さんが前になったので、後ろからどっちのルートに行くのかを見ていました。分岐から松井さんは青ルートの方に進んだため、「よしよし」と思いながらスピードを上げて赤ルートを進みました(松井さんはその後青ルートの途中から藪を切ってランク1に出ました)。ここで、少しだけですが先行することが出来ました。しかしこの少しが、特にレース終盤の体力も集中力もギリギリになって来る時には重要な差になってくると思います。

 f:id:orienadvent:20171217201647j:plain f:id:orienadvent:20171217201713j:plain

 

6.情報収集・伝達の重要性

最後にチームでの情報伝達(主に1→3走)の話をします。

コース予想が難しいテレインの場合は、コース全体の回しや大きな登りの有無、難しいレッグが出てくるタイミングなど、コースの概略的な情報を伝えることは、次走者への有効な情報伝達になるでしょう。

コースの回しがある程度予想出来ている場合は、より細かい情報を伝えることが出来ます。

 

また全日本リレーの例ですが、2→3では主要道をくぐった後すぐに右の細い道で登るのが正解ルートになっています(赤ルート)。地図表記が細かく非常に読み取りにくいところですが、気づかずに直進すると(青ルート)、上の道に出るのに遠回りして藪を切らなければならないようになっています。

愛知県チームの1走2人と話している中で「一番南の山塊に入るところはトンネルくぐってすぐ右の階段が早い」と聞いていたので、地図を読み込むことなく赤ルートを選びます。ここですぐ前を走っていた山梨は真っすぐ進み分岐を通り過ぎたため、先行することが出来ました。この先は登りの後ヤブい沢に下るレッグだったため狙い目と思い、スピードを上げて逃げ、山梨を完全に切り離すことに成功しました。

f:id:orienadvent:20171217201848j:plain f:id:orienadvent:20171217201908j:plain

 愛知県チームでは前日に公園の案内マップを見て、コースの大まかな回しを予想していました。その上、橋や広場や遊具の名前を憶えて情報伝達に使ったりしていました(有効だったかはわからないが、大体通じた)。

ちなみにまんのう公園の案内図は前週の7人リレーの会場であるアルプスあづみの公園で入手したそうです(どちらも国営公園)。情報収集力が高い。

 

さらに、伝えられる情報はコースについてだけではありません。

全日本リレーでは3走で出走する直前、1走の菅谷さんから「最後のパターン振りが有利」であることを伝えられました。パターン振りは3人ですべてのパターンを走破することになっているので、前の2人がどのコントロールを通過したのか分かっていれば3人目のパターンもわかるわけです。レース最終盤、ビジュアル通過時点ですぐ後ろに松井さんがつけていましたが、最後有利パターンなのは分かっていたので、下手を打って抜かれないようにだけ気を付けていれば勝てると思っていました。

競り合う展開のレースでは、3走の最後のパターン振りというのは順位を決定する非常に大きな要因になります。有利だと分かっていれば焦って先行しなくても並走していれば勝てる見込みは高いし、逆に不利なコントロールが残されている場合はどこかで先行しておかないと最後に負ける見込みが濃厚になってしまいます。あらかじめ有利か不利か分かっていれば、レース中の戦略を考えて走ることが出来ます。

特に1走では周りに他チームの走者が多く、自分が有利/不利パターンを引いたことが分かりやすいです。コースのどのあたりでパターン振りがあり、自分が有利/不利だった、という情報だけでも、3走には価値ある情報と言えます。

 

7.まとめ

走順や戦略を考える楽しみ、1走スタート前の緊張感、情報伝達その他の盤外戦術、競り合いの緊迫、応援…どれもリレーならではの面白さがあると思います。

雑多にいろいろと書いてきましたが、結局言いたいのは「リレー楽しいからもっとやろうぜ」ってことです(笑)

 

ここまでお読みいただいてありがとうございます。皆さんの心のリレー熱に少しでも助力できれば幸いです。

 

 

 

インカレスプリントの提訴の件

 

物議を醸したインカレスプリントの会場付近の誘導。裁定委員の1人として、その場に立ち会って思ったことなどを書きました。

最初に断っておくとこれはあくまで個人の見解であって、裁定委員会の見解でも、裁定委員他のお二方の意見とも全く関係ないものです。また、インカレ実行委員会の見解については報告書に記述されるはずなので、是非そちらを読むべきと思います。

 

0.ルールブックと今回の裁定

~日本オリエンテーリング競技規則より~

  1. 地上における表示

15.1 競技者が通ることを義務づけられたルートには、標識をつける。標識は、オレンジ と白のテープまたはストリーマを一緒につける方式が望ましい。

 

  1. 競技中の行動

23.3 競技者は、自分のコース内の誘導部分では、終始誘導に従う。(後略)

 

~日本学生オリエンテーリング選手権実施規則~

第14条 コース

14.4 コース上の誘導区間は、競技者は必ずこれをたどるものとする。(後略)

 

第22条 現地における表示

22.1 誘導区間は,赤と白の2色のテープにより示される。

 

誘導区間を設定する場合、運営者にはテープ等による誘導を行うことが、競技者には誘導区間を辿ることが規則に明記されています。つまり、これが日本のオリエンテーリングの、そしてインカレのルールということです。

 

もちろん誘導を辿らないことがルール違反となる前提として、誘導を辿らないことで公平性を欠く、つまり辿らないことでタイムを縮められる等の利益を一部選手が不正に得てしまう恐れがあるということが考えられます。提訴文にもあるように、誘導を外れたルートの方がタイム的に不利に見えることは確かであり、その点では失格という厳しい措置を取るほどの内容ではないという見方もできます。しかし今回の場合、誘導を外れたルートではさらに次のコントロールの付近を通過することになり、誘導を辿る場合と比べてその後のナビゲーション上有利になる情報を得ることが可能となっていました。つまり、そのレッグで誘導を外れて遅いルートをとってしまったが、その次のレッグにおいては有利になっており、一概に誘導を外れたルートが不利であったとも言えないわけです。

こうしたことから、誘導を外れた場合には辿った場合と比べて当該レッグのタイム、ナビゲーションに関わる情報を含めた公平性を欠くことになるため、私は失格を妥当と考えます。多くの学生がインカレのために並々ならぬ努力、準備を重ねてきていることはよく分かっているし、できれば失格にせずにせめて記録を付けてあげたい気持ちは運営者も裁定委員も十分に共有していましたが、インカレが選手権大会であり、スポーツとしてオリエンテーリングに取り組む以上、ルールを遵守することは最も基本的なことです。

 

1.運営者の責務と判断

運営側の視点から、誘導の設営は適切であったかについて考えてみます。

今回、会場に至る誘導は前のコントロールから一貫して短冊上のストリーマが道の左側に、同じ高さに付けられ、会場付近では右側にもレーン上にストリーマが設営されていました。また、誘導の終わりには、誘導区間のかなり早い段階から見える位置に設置されていました。つまり、コントロールから純粋に誘導を辿るとなると、短冊テープに従い道の左側を常に通行し、途中からは看板により誘導区間の終わりが早い段階から視認できる状態であった、ということです。

一方で、一部の選手が誘導を外れて入り込んでしまった学校入口には、特にテープ等は設置されていませんでした。これは判断が分かれるところであるかもしれませんが、立入禁止の青黄テープを巻くわけにもいかない(車両の出入口であり、一度会場に入った選手がミスをして通過する、などの恐れもある。地図表記も困難)といったことを考えると、学校入り口部分には表示をしないという実行委員会の判断は誤ったものではなかったと思います。

もちろん、これがベストであったというわけではなく、それ以外の適切な方法を採ればより良い現地表示や誘導をすることはできたのではないかとも言えます。今回の場合で言えば、観戦エリアとの区切りとしてテープ等による表示を行うことが出来たかもしれません(表示の意味が競技者にも観戦者にも伝わらない恐れはあるが)。会場のレイアウトを工夫し、観戦者で誘導を外れるルートを埋めることが出来たかもしれません。

 

2.競技者の責務とリテラシー

次に競技者の視点から、この誘導について考えてみます。

今回の件に限らずオリエンテーリングを競技として行う以上、先の規則にもある通り、誘導に従うことは競技者の責務です。今更言うまでもなく、誘導を正しく辿らないということはルールを逸脱した反則行為であり、失格とされても文句は言えません。

 

過去2回のインカレスプリントを振り返っても、誘導辿り、コントロール不通過や立入禁止区域への侵入など、様々な理由で多くの失格者が出ています。インカレだからこそ気持ちが前に出てしまうのはわかるし、スプリントは高速で走行する競技の特性上、こういったミスが起こりやすいことは確かですが、インカレスプリントももう3回目。厳しい言い方ですが、同じようなことで毎年多数の失格が出ているわけですから、スプリントは秒を争う以上、いろんな意味でシビアに見られる競技だということをもう少し心に留めた方が良いのではないかと思います。

 

3.まとめ

正直なところ、スプリントについては競技面も運営面も、私自身も十分に理解しているとは言えません。

競技者の視点からは、もっと選手権レベルで運営される大会が増えて、よりスプリントという競技への理解を深める機会が増えてほしいと思います。スプリント自体が観戦を重視した種目ではありますが、過去には観戦者が走者のルートを塞ぐように立っている場面も何度か目にしました。

また、スプリントはどこでも練習できる面がある(ストリートOやキャンパススプリントなど)反面、非常に練習の難しい面(タッチフリーでの計時、多数の観戦者など)があります。ほかにもインカレで言うなら、近接コントロールや立入禁止表示、誘導辿りの対策を意識的に行った大学がどのくらいあるのか、気になるところではあります。競技者としてどのようにスプリントに取り組んでいくのか、全日本やインカレを本気で志すのであれば、独自練習の創意工夫も求められてくるのかもしれません。

 

スプリントの運営はテープ誘導一つ、計時方法一つとってもフォレストとは違う難しさがあります。実行委員長をやらせてもらった松本の全日本スプリントも、地図調査や表記、テレインの制約、競技の公平性の担保、予選決勝の運営といった多くの課題を抱え、頭を悩ませながらの運営でした。今回インカレでのもう一つの提訴から見えてきた課題として「0.1秒単位での計時の公平性を担保するスタート方法」がありました。回を重ねていけば、まだまだこうした課題は出てくるのだろうと思います。

 

運営者側も競技者側もまだまだ知識や経験が十分でなく、ノウハウを蓄積していく時期にあるのだろうとは思いますが、日本で選手権大会として、本当に厳密に開催されるのは全日本とインカレのせいぜい年2本だけなので、その中で得られた課題や知見は共有し、今後に生かしていってほしいと思います。