オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

ナビゲーションスポーツ 今とこれから

本日の記事を書くことになりました柳下です。
簡単に自己紹介すると、1993年大学入学時にオリエンテーリングを始め、今年で競技歴28年になります。ナビゲーションスポーツ全般はTEAM阿闍梨で、オリエンテーリング活動はみちの会所属でやっています。選手としては1998年にユニバーシアード、2010-12年に世界選手権に出場した経験があります。またオリエンテーリングと並行して、1999年から山岳レース(最初に出たのは富士登山競走)、2002年からロゲイニング、2014年からOMMなどに取り組んでいます。最近の年間で一番の目標レースはOMMJAPANで、今年もストレートエリートで優勝することができました。
これまでナビゲーションスポーツを幅広く取り組んできましたが、今思うことと、これからの方向性(自分自身やナビゲーションスポーツ全般)などをざっと書きたいと思います。

オリエンテーリングの現在
オリエンテーリングに適したフィールドというとどんなを思い浮かべるでしょうか。
ざっくりいうと、森があって地形が急峻すぎない(あるいは高低差が大きすぎない)フィールドということになると思います。これを満たせば微地形であってものっぺりした地形であっても、オリエンテーリングを楽しむことができますね。また、植生が良いことも適した条件でしょう。
いずれもしてスピードがあがる状況で、スリリングなナビゲーションを競い合うのが世界的な流れです。近年は国内でもその流れを汲んで、より良質なテレインの開拓志向の高まっていると言えますし、地図調査のベースとなる測量成果の質の向上やマッパーのプロ化も進み、トータルで「速い」ナビゲーションをする環境が整ってきていると感じます。
自分はというと、やはり40代になると走力や視力(これが一番ネック)の低下で、成績を出すという面ではだいぶキツくなっています。ただ、スピード感溢れる若い選手たちが活躍するのがあるべき姿だと考えています。私のこれからのオリエンテーリングはシンプルに以下2点です。
「魅力的なテレインや精度の高い地図でのナビゲーションを楽しむ」「出場すると決めた時は準備してベスト尽くす」

山岳ナビゲーション
日本は面積の2/3が森林ですが、急峻で比高の大きな山地が多く、その大部分は上記のスピード感溢れるオリエンテーリング競技向けではありません。以前はいわゆる山岳系テレインも多く存在しましたが(埼玉県でいうと「四番金昌寺」「粥二田峠」「折原」など)大部分は過去のものです。OMMのようなエリアが広大な競技だと、「オリエンテーリング向けのエリア」のみでは競技が成り立たないので、比高の大きな日本的な山岳ナビゲーションのエリアが必ず含まれます。
実際のところ、そこにナビゲーションの面白さがない訳ではなく、例えば、登山でのいわゆるバリエーションルートの尾根辿りは地形読みやコンパスワークのスキルが問われますし、現在地をロストをすれば最悪遭難につながりかねないので緊張感のあるものです。また、地形が大きいだけに数キロに及ぶ大胆なルート選択で、ベストルートを発見した時の快感も大きいです。さらに登山に必要な技術が身につく、あるいは磨いたスキルを存分に活かせる、ギアを活かせる、といった側面もあるでしょう。
実際にOMMを皮切りに、マウンテンオリエンテーリング、マウンテンマラソンというタイプのレースが開催されるようになり、これらは登山やトレイルランニングを主とする人たちにも受け入れやすいものに感じます。

地図作成の環境
ナビゲーションスポーツを支える地図作成の環境についても進化しています。
Oマップは競技に特化した精細な表現の地図ですが、Oマップのないエリアでナビゲーションをするには地形図が唯一ともいっていい選択肢でした。地形図は全国が網羅されていることが利点で登山の地図読みには必要充分な地形表現ですが、やや表現が甘くで地形上にCPを設定するナビゲーションスポーツでは扱いにくい面もあります。
そこで、より競技での使用に耐えうる精度のデータとして利用できるのが基盤地図情報で、ここ数年で急速に整備は進んでおり無料で利用ができるのが利点です。基盤地図情報はOマップ作製のベースにもなっていますが、1/2.5万図だと加工なしで使う分にも相性がいいと感じています。地図読み登山の際にはQGIS等を使ってさっと1時間ぐらいで地図を作って活用することが多いです。
さらに基盤地図情報もそうですが、まだエリアは限定されるものの高密度のレーザ計測データもオープンデータとして公開され始めています。これらのデータはナビゲーションスポーツの発展にも大きく寄与していくものとして注目しています。良い地図はワクワクさせてくれるものです。

広がりと想定される課題
先に書いたように日本でのナビゲーションスポーツは、「世界の基準に沿った競技オリエンテーリング」「日本の山地に適したマウンテンナビゲーション」という2つの方向性に進みつつあるのではと考えています。「スピードの追求」と「ロマンの追求」でしょうか。
(今回は山や森ナビゲーションを話題にしていますが、市街地においてもパークO、街スプリント、街ロゲイニング、古地図ロゲイニング、、といったナビゲーションの形態があります)
オリエンテーリングは競技規則はもとより、地図作成やテレイン利用のガイドラインなども確立されており、組織立った活動がされています。一方でマウンテンナビゲーションはまだ歴史がまだ浅く、競技の形式もOMMが最もメジャーですがそれが全てというわけではなく、ナイトを含めたナビゲーションという形式もあれば、ルート選択を含んだトレイルレースといった形式も考えられます。
チャレンジングな魅力にあふれている反面、広範囲で行う場合は特にリスクマネジメントや渉外面などもよくよく検討しなければいけない事項になると思います。現状はイベントの規模や主催者の考え方により、手探りな部分があるのが実情ではないかと思いますが、今後発展していく上ではここが一番の課題ではないかと感じています。
ちなみに個人的には仲間内+α程度で節度ある草ナビイベントは肯定で、ただし「オリエンテーリング」の名称は使わない、地図等の公開は慎重に、という考えです。加えて強く思うのが、一方の愛好者がもう一方に否定的であってほしくないということです。尊重し合うマインドがとても大事だと考えています。

地形探しの旅
最後に一つ、競技の世界から離れて自身で魅力的な地形を発見していくという方向性もあると思います。一部のマニアの間で「地形萌え」という概念がありますが、地形を探すことはアウトドアアクティビティのひとつジャンルと考えることもできるでしょう。
ライミング、キャニオニング、ケイビング、などなど様々なアクティビティと地形を使った遊びが並ぶわけです。(これらに該当するかっこいい用語がすぐに浮かびませんが、、)
地形探しはアクティビティしては地味かもしれませんが、まだ行く尽くされ語りつくされていないジャンルで、これから発見していく面白みがあると思います。百にこだわるかはさておき、ゆくゆくは日本百名山などの百名○○みたいに「日本百名地形」という概念なんかもできるのかもしれませんね。
さて、話はオリエンテーリングに戻りますが、人生には競技を掘り下げる時期があると思います。私は20-30代それに当たりました。もう掘り下げる時期は過ぎました。でもそこからが長いんです。これからの自分の理想を考えると、時には競技で、時には気の向くままに地形を探す旅をやっていくことなんじゃないかなあ、などと最近は考えています。