オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

オンライントレイルOって、なに? + おまけ:千葉県協会の現状

この記事は、オリエンティアAdvent Calendar 2021の24日目の記事です。

 

1 はじめに

 はじめまして、千葉県民の平山遼太です。所属歴は東大OLK(2014~2018)、京葉OLC(2016~現在)です。運営でいうと最近ではICS2021の競技責任者をやっていました。これについては、報告書という正式な場で書きたいと思います。

 そんなわけで、今回は自分だからこそ書けると思う事柄として、これまでのAdvent Calendarであまり触れられていない「オンライントレイルO」と「都道府県協会」について少しずつ書いてみようと思います。元々後者で書いていましたが、タイミング的にオンライントレイルOのことを話したいと思って足したところ、後者はおまけ扱いになりました。どうかお付き合いくださいませ。

 

2 オンライントレイルOって、なに?

2-1 オリエンテーリングを、オンラインで!

 そもそもトレイルOって、なに?という方は2019年の岩田さんの記事をご覧ください。

トレイルOって、なに?[オリエンティア Advent Calendar 2019] | つるまいOLCの活動記録

 さて、オリエンテーリングをプレイする場合、基本的にはテレイン現地に行かないと楽しくありません。本質は地図と現地を照合し、かつ現地にいる自分を次なる目的地へと正しくまたは速く移動させることだからです。コロナ禍という未曽有の事態に遭い、様々な分野のオンライン化が進んだ2021年末現在にあっても、現地での移動を本質の一部とするオリエンテーリングそのもののフィールドがインターネットに移ることはありませんでしたし、暫くそのようなことは起こらないと思います(CFなどのゲームやVRもありますが、VRの普及率が低いことと、やはり現地での移動の方がエキサイティングであるとの個人的な感想に基づく)。

 しかし、トレイルOなら?海外の偉大な先人たちは考えました。トレイルOが重視するのは、移動よりも地図と現地の照合です。これならオンラインでも楽しめる、それに気付いた人々によって始められたオンライントレイルOは、2020年に激甚化したコロナ禍をきっかけに、海外を中心に急速な拡張を見せているオリエンテーリング分野です。このブームを受けて、日本でも今年3月にインカレ協賛トレイルOがオンライン(Googleフォーム)で開催されており、今年度も2022年2月に同様の大会が開かれることが告知されました。

2021 年度 インカレ協賛トレイルオリエンテーリング大会 | Japan-O-entrY

 そこで今回は、オンライントレイルOの2つの取り組みを紹介します。いずれも海外のもので、ときに英語を読まないといけませんが、始めてしまえば特に問題ありません。私たちには言語を必要としない、地図という世界共通のツールがありますから。

 

2-2 TempO Simulator

 チェコLibor Forst氏らが運営するウェブサイトです。写真を用いたTempO(正確に読図する速さを競う)を楽しめます。

TempO Simulator

 遊び方は非常に簡単です。スマホでもできますがやりづらいので、PCやタブレットを推奨します。

 アクセスしたら、まずは無難にModel station辺りに触ってみてください。出てきた画面でZoomにチェックを入れてLoadするとStart (fast) かStart (slow) か訊かれますが、これは写真表示から解答開始までの時間が短いか長いかです。とりあえずどちらでもよいでしょう。

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TempO Simulatorより

 上図はスタンバイ画面で、OKすると、上の四角に写真が、下の緑の部分に地図が、その近くに位置説明がそれぞれ出ます。前の画面でZoomにチェックを入れていれば、写真や地図の拡大したい箇所にカーソルを合わせると拡大できます(できない場合もある)。あとは地図上のコントロール円の中心にあり、且つ位置説明と一致すると思うフラッグ(左から順にA-Fと呼ぶ)を選んで解答していきます。画面に出てくるボタンをクリックするか、キーボードのA-Fか1-6を押すと解答できます。該当するフラッグが無い場合もあり、そのときはZか0or7を押します。なお、私はテンキーの4-6に左手の人差し指から薬指までを置き、キーボードは見ずに指だけ動かして解答しています(Zの場合は7、稀に指がずれていて大惨事)。右手はマウスを持ち、必要なときに拡大を使います。

 リアルのTempOと同じで、1枚の写真を使って複数の問題が出ます。この例では"Number of tasks : 5 / Time limit : 150 sec."となっているので、150秒の制限時間内に5問ノンストップで解くことになります。間違えると標準30秒のペナルティがつき、一気に順位も下がるので、「1秒でも早く押したい、でも間違えられない」スリルが病みつきになります。また、あくまで写真の中からしか情報を得られないので、「限られた情報から論理的に正解を導く」過程が楽しいです。全ての問題に解答すると結果画面が表示され、問題ごとの所要時間や中間順位も出るので、他者と比較するとなかなか面白いです。

 このTempO Simulatorではたまにシリーズ戦が開催されています(参加するにはトップページ右上のRegistrationからユーザー登録が必要。デフクイズをお楽しみください)。大抵数百人が参加していて、日本を含む世界の強トレイルオリエンティアも多数います。第1回は2020年5月に開催され、我らがKentaro Iwata(JPN)が優勝しました。

 ナンバリングされたシリーズ戦"TORUS Cup"の他にも、様々なコンセプトのイベントが不定期に開かれています。今年5月には、延期になったヨーロッパ選手権の日程を使い、予選イベントの上位32人がZoomを繋いで決勝をリアルタイムで争う(通常のTempOではありえない)プレーオフが開催されました。我が国からはKentaro Iwata(JPN)と私(繰り上がり末席)が決勝に参加しています。岩田さんは2回戦進出し、私は1回戦でワールドランキング1桁の選手達に速やかに敗北しました。別のイベントでは、Minecraftで作られたステージなんかもありました。こういうのはオンラインならではですね

 私は最初のシリーズ戦の存在を当時に知りながらも、若者のオリエンテーリング離れで斜に構えて参加しなかったのですが、菅平CC7前日大会トレイルOで惨敗したことを機に、家でも練習したくなって始めました。しばらくやって慣れたら1秒を削り出していく感覚が楽しくなってきました。なぜか無料(!)でいつでもTempOができちゃうので、気軽に始めてみましょう。なんとまさにちょうど今日、単レースのイベント"TORUS Christmas Eve(nt) 2021"が行われます(テレインはノイシュヴァンシュタイン城)。日本時間で24日8時から25日7時30分まで挑戦できます。幅があるぶん良心で成り立っているので、レース終了までは競技情報を漏らさないでくださいね。レッツトライ。

 

2-3 2021年 香港野外定向會 x 台灣定向運動協會 網上沿徑定向(精確賽)系列

 香港と台湾の団体がコラボして送るPreO(純粋な読図精度を競う)のシリーズ戦です。今年の2月から始まり、以降偶数月にレースが行われています。

香港野外定向會 (アクセスして少し下にスクロールすると案内あり)

 自ら地図を読んで移動するPreOをどうやってオンラインで、となりますが、本質的なところはTempO Simulatorとなんら変わりません。フラッグが置かれた景色の写真を見て正しいフラッグを見極めるのは同じで、その写真の場所をストリートビューで探すのです!

 地図はGoogleドライブで配布され、参加者はストリートビューでスタート位置に召喚されます。課題の写真はGoogleフォームに掲載されていて、ストリートビューと見比べながらフォーム上で解答を進めていきます。厄介なことに、当然フラッグはストリートビューに載っていないので、まず課題の写真と一致する場所と角度をストリートビュー上で探し、フラッグの位置を認識したうえで、立ち位置を変えての検討が必要な場合はストリートビュー上で移動し、写真と違う角度からフラッグの位置を想像しなければなりません。何を言っているのかわからねーという感じですが、問題によってはこれで結構悩まされ、手間がかかります。もちろん時間も相応に。ある意味リアルのPreOと同じくらいのタフネスが求められることもあります。それでも、「手元に1枚のO-mapがあって、未踏の地に足を踏み入れて地図と現地の対応を楽しむ」ことの喜びは何物にも替え難いです。

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第5戦のテレイン「硫磺谷」©Google

 これもなぜか無料(!)です。なかなか気軽にとは言いがたいですが、始めてみましょう。なんとまさにちょうどいま、今月22日から29日まで、最終戦が行われています。お時間のある方はレッツトライ。

 

2-4 まとめ

 今回はオンライントレイルOの世界の一端を紹介しました。純粋な読図能力だけが問われるので、移動が得意でない人にもおすすめですが、インターネット環境さえあれば誰であっても快適なお部屋でまったりオリエンテーリングができます。普段トレイルOをやらない人も、こんなオリエンテーリングの形があるということを知ってくだされば幸いです。そして願わくは、この記事を最後までご覧になったあなたが、実際にオンライントレイルOを楽しんでくださらんことを。ぜひ対戦しましょう!

 

3 おまけ:千葉県協会の現状

 ここからおまけです。一とおり書いてしまったし、次の発信の機会があるとも限らないので公開しておきます。

 

3-1 都道府県協会とは

 私はこれまで東京都協会理事(2015~2018)、千葉県協会理事(2018~現在)を務めました。東京都協会ではお手伝い程度のことしかできませんでしたが、千葉県協会ではそれなりの思いを持って活動しているつもりです。今回はその内容を中心に色々と書いてみます。

 現在ある47都道府県のうち、少なくとも36都道府県には協会が存在します(JOA加入実績より)。皆さんも地図作成申請とかテレイン使用申請とか、一般に面倒と思われている手続きでやりとりをしたことがあるかもしれません。しかし、やりとりをした相手組織の中身を知っている人はそう多くないと思います。そもそも都道府県協会とは何でしょうか?

 一例として、千葉県協会が定めている規約を見てみましょう。大事なことは大抵規約に載っています。まずは第3条(目的)です。

第3条 本会は、オリエンテーリングの普及を図り、県民の健康と福祉の増進及び県民スポーツ振興に寄与することを目的とする。

 一応こういうことになっています。「県民の」という部分が組織の最大の特徴でしょう。ずばり存在意義は都道府県民のためになることです。この書きぶりはなぜかどこか行政っぽいですね~。はい、続いて第4条(事業)です。

第4条 本会は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。

  1. 大会の開催等行事に関すること。
  2. 講習会、研究会に関すること。
  3. 指導員の養成及び資質の向上に関すること。
  4. 指導員の資格認定及び更新に関すること。
  5. 県内パーマネントコースに関すること。
  6. 調査、研究に関すること。
  7. (公社)日本オリエンテーリング協会(JOA)に関すること。
  8. 関係機関、他団体等との協力に関すること。
  9. その他、本会の目的を達成するために必要な事項。

 東京都協会の規約にも概ね似たことが書いてありました。結局のところ、活動内容は各協会に委ねられていて、それぞれのカラーが出るところと思います。過去のAdvent Calendarで紹介されているように普及事業に熱心な協会もあれば、継続的な大会開催に取り組んでいる協会もあります。長野県協会は県下に大きなクラブがないため、関係個人が集まって一種のクラブのような運営をしているようにも見えます。一方では、有名無実化している協会が存在することもまた事実です。

 以上、都道府県協会の概観的なお話でした。次節では千葉県協会について紹介します。

 

3-2 千葉県協会とは

3-2-1 来歴

 千葉県協会は千葉県オリエンテーリング委員会(以下、委員会)を前身とする団体です。1966年にオリエンテーリングが導入され、健康・体力づくりプログラムに位置づけられていた頃、行政の施策の中で県内のオリエンテーリングを推進する組織が必要でした。そこで1974年、千葉県社会部青少年課に事務局を置いて作られたのが委員会です。

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委員会広報紙『オリエンテーリング千葉』(お知恵拝借も空しく、後に正式名称となる)

 やがて徒歩オリエンテーリングブームが下火になると、行政からは切り離されて委員会は解散し、後継となる民間の任意団体として1986年に県協会が生まれました。県協会大会の開催やパーマネントコースの維持などの活動がコンスタントに続いていましたが、あるとき空白の7年が訪れます。2011年に「山武雨坪」で全日本リレーを開催した後、主要メンバーが抜けて事実上の休眠状態に入ったのです。それから数年間は、最低限の機能だけを維持して存続しましたが、引継ぎも十分に為されていない状態でした(どんな形であれ存続させてくださった方々には感謝)。この状況に危機感を持った人は私を含めそこそこおり、水面下の工作活動を経ていよいよ2018年に再始動しました。このとき役員も多く入れ替わり、2020年には役員の3/4を20代以下が占める異例の県協会に生まれ変わっています。では、その現状を見てみましょう。

 

3-2-2 事業

 規約にも掲げられているとおり、まずは「大会の開催等行事に関すること」が県協会の第一の使命です。オリエンテーリングは現地で行うアクティビティ、行事をやって人を集めて、普及や健康増進につなげようという意図が感じられます。

 しかし、千葉県協会主催の大会は2010年の第34回大会を最後に開催されていません。テレイン維持等の観点からも、大会の開催は必要な事業です。私も千葉県に戻ってきたわけですし、何かやりたいとは思っています(漠然)。

 実は、2020年5月に千葉県協会主催で「第1回銚子ジオパークロゲイニング大会」を開催する予定でした。しかし、最初の緊急事態宣言との重なりもあり、開催を見送ったのです。そして現在、銚子ロゲは来年(2022年)5月29日の開催を目指して準備を再開しています。どうぞご期待ください。

 

3-2-3 県内の活動の統括

 統括という言葉は少し違う気もするのですが、敢えて使います。県内の地図作成やテレイン使用に際しては申請と報告を義務付けていて、県協会が1つずつ承認するという流れをとっています。これもオリエンテーリング界隈限定口伝ルールの1つでしかなくて、忘れられてしまうこともあるのですが、単純な情報集積の他にも、それぞれ重要な意味を持っていると思います。

 地図作成は、作図技術やスプリントの普及により随分簡単にできるようになりました。そのような中、版権の問題(同じエリアに複数の地図があってよいのか?)は常について回ります。地図は無二の芸術品です。しかし、生産者も消費者も限られている現状において、公開を前提とした地図を作成する場合、異なる人が同じエリアの地図を作って品質や価格を競争することはほぼ無意味ですし、渉外等手続き上の混乱も生じるかもしれません。それをするくらいなら、別のエリアを見出してもらい、地図の総数が増える方が明らかに界隈の利益になると思うところです。事前の地図作成申請は、このような重なりを防ぐためにも必要です。

 そこで、千葉県協会では、県内で作成された地図の一覧を更新し、その全てをGoogleマイマップにプロットしました。これを見れば、過去に地図作成実績があるエリア、現在地図作成中のエリアがわかるようになっています。こうした情報の集積と公開に当たっては、個人には限界というものがあり、確実に速く情報提供できるオフィシャルな立場で取り組むことが望ましいでしょう。地図を作りたい人、地図を使いたい人の双方に有益なデータベースであると考えています。

 また、テレイン使用申請・報告も重要です。予め申請を受けることで、同じ日にイベントがかち合わないように調整しなければなりません。また、報告の内容によってはテレインの適正な利用についての呼びかけなどの対応が必要になることもあるでしょう。

 しかし、これも線引きが難しい時期に来ていて、数人レベルの気軽な練習会を受け付けるべきかどうか、様々な意見があるところです。今後の検討事項ですね。個人的には渉外さえきちんとしていれば問題ないとは思うのですが……

 

3-2-4 県代表選手とりまとめ

 都道府県対抗の全日本リレーでは、協会単位で申込みを行います。私自身、ベテランの方も多く集まる選手団の中では若造ですが、都道府県単位で集まれる全日本リレーが好きで、2018年から選手募集と団長をやっています。2020年度は開催地が珍しかったことやGoToトラベル事業も手伝い、私が知る限り最多のメンバーが参加し、千葉県初の団体総合優勝()を収めました!2021年度の参加者もこれから大募集しますので、よろしくお願いします。

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いつかの千葉県選手団(新しい協会旗も大会に合わせて作成)

 また、千葉県の場合、ねんりんピックのとりまとめも行っています(これまで選手派遣実績はなし)。千葉県や千葉市社会福祉協議会から選手選考を依頼され、有資格者に呼びかけています。

 

3-2-5 会計

 組織が何か活動するのにお金は必要です。

 千葉県協会の収入源ベスト3は、千葉県での競技者登録料、指導者登録料補助金、会員(県下3クラブ+個人)からの会費です。一方支出は、JOA会費※、全日本リレー学生参加費補助、雑費です。千葉県協会の収支はこれでトントンで、他のことにお金を使っている余裕はそんなにありません。

 ※千葉県協会を含む各都道府県協会はJOAの正会員となっているところが多いです。クラブの所属員がクラブに対して会費を支払うように、都道府県協会はJOAに対して毎年一律10万円の会費を納め、中央との関係を築いています。なお、競技者登録者数に応じて都道府県協会に収入が来ることになりますが、競技者登録数が少なく、この10万円を支払うことが難しい協会もあります。そのような協会には実質会費免除のような仕組みがあり、その財源が公認大会の参加費に上乗せされる会員支援金というものです。千葉県は競技者登録数が多いので貰えません。

 都道府県協会がお金を集める方法は色々あります。イベントを開催したり、県内のオリエンテーリング活動に対して課税したり。お金を持つことが活動の充実につながることは間違いありません。私たちは何らかの形でお金を集めて、県民に還元しなければならないのです。

 

3-3 まとめ

 いかがでしたか?何を知ってほしいのかぱっとしない記事になりましたが、組織の概要や実情なんかを知ってくださるだけでも幸いです。皆さんの理解と協力なくして都道府県協会はありません。県協会にこれをやってほしい!みたいな要望もあると結構ありがたいです。これを機に興味を持ち、関わってくださると嬉しく思います。今後とも各都道府県協会をよろしくお願いします。