地図を綺麗に描くこと
おはようございます、こんにちは、そしてこんばんは。
東大OLK所属の大学4年生の瀬川です。アドベントカレンダーで記事を書く機会を与えていただきました。ありがとうございます。
何を書くか迷ったんですが、インカレで感じた「やっぱり山ちゃん・西村さんの地図はいいなあ」ということを書こうと思います。「尾根の隣が沢で沢の隣が尾根」これだけのことなのに作図するのは難しいなあって話をします。その前に、まずOLKの調査と地図の話からします。
OLKの地図調査合宿
いわゆる調査です。
OLKの人は大体南関東に住んでいるんですが、OLKが版権を持っているテレインは南関東にはないことが多く、通えないため、公民館を格安で借りて調査合宿を行います。4泊5日程度の調査合宿を年に6回くらい行い、渉外をし、地図を完成させ、大会準備をします。調査能力のある人に調査範囲を割り当てて一次調査をし、それが終わったら代わる代わる他の範囲で修正調査を繰り返し、地図をよりよいものにしていきます。
GPSデータを点情報としてとり(1秒に1回誤差10mの点データをとり、30秒取った平均の点)、とった地点にスズランテープを目印として巻きます。ちょっとやりすぎな気もしますが、1:10000のA3で1枚の地図を描くために約6000本テープを巻きました。林業をされている方はとっても親切で、こっちが巻かせていただいているのに、外してもいいか連絡をくださる方もいました。
それを確定点情報として、コンパスと歩測で地形をとって、下図に描きこみます。会館に帰ってきたら清書します。いわゆる「クリーン」です。
OLKのマッパー(=作図責任者)は基本的にこのクリーンをスキャンし、OCADデータに直す(=丸写しする)ことが調査合宿中のメインの仕事です。翌日は最新の地図で調査するので、その日のうちにすべてのクリーンを反映します。みんなが作図に慣れてくるとたくさん描いてくるので、1枚30分×20枚=10時間とかかかるようになります。
調査合宿は、調査自体がなければ楽しいとか言われてます。空いた時間はゲーム(スマブラ)したり、ボードゲームしたり、わいわい楽しめます。プライバシー環境・睡眠環境が悪くしんどい調査合宿ですが、その分仲間との距離が縮まるような気がします。
よく、「OLKは地図調査のノウハウを持ってる」など他大から言われるのですが、あんまり特別なことはしていないです。ここ数年のOLKの人数の多さを活かして、GPS点を大量にいれ、コンパスと歩測等で地道に描いているに過ぎないです。さらにぶっちゃけて言うと、数人ちゃんと描ける人がいてそれに頼っている感じもあります。たくさんオリエンテーリングの経験を持っていると、地形の引き出しが多くなって描けるみたいです。
森の地図調査してみたい大学はまず描いてみるのが一番だと思います。
「吾妻太田」の地図について
僕は2016年6月のOLK大会の作図責任者でした。テレインは群馬県榛名山北麓の「吾妻太田」。「吾妻太田」の範囲には残念ながらレーザー測量データはありませんでした。また旧図は24年前のものでした。当時試走を終えた鹿島田大先輩が「この地図ではオリエンテーリングはできない」と言い放ったという伝説を聞いています。しかし他に頼りになるものもほぼないので、というか知らなかったので、旧図を下図としGPSを入れて地図を描きました。「吾妻太田」は地形として地図にとるか微妙な大きさの地形も多く、悩まされました。また夏と冬で植生が全然違うので困りました。C藪がA藪になるっていう。大会当日の藪はどうなるのっていう。
下図はあるとは言えほぼほぼ1から描くようなものだったので、時間はシビアでした。
初日できた作業はこれだけでした。赤い点がとったGPS点データです。感慨深い。レーザーデータがないので、自分の範囲に何本コンタを入れるかを決めます。OLKの調査は大人数で調査するのが強みですが、でもこのせいでコンタが足りなかったり余ったりして、地図が「歪み」ます。
8月調査①が終わった直後。2週間でこれしか描き進まず、テレインの大部分が未着手でおわらないんじゃないかとひやひやしました。GPS入ればかりしてた。
一生懸命描いてだいぶ完成に近づきました。2月3月は本当に寒かった。
作図責任者は枠を作ったり、磁北線切ったり、地図の微調整もします。
上の題字もスキャンして、OCADで淵をなぞり、中を塗りました。
まあ、そんなこんなでどうにか大会にこぎつけました。
YMOEとNishiPROによる地図がいかに素晴らしいか
昨年のNishiPRO西村さんのアドベントカレンダーの記事
https://www.facebook.com/notes/1190163404400388
を改めて読んでみると
「真実を知ることをおろそかにして表現にこだわった地図はどんどんおかしくなっていきます。特定レッグ、特定のコントロール位置、特定のルートに限ってみれば違和感のない地図に仕上がったとしても、ひとたび違うコースが組まれると途端にぼろが出てしまいます。」
「地図のきれいさには徹底的にこだわりましょう。作図がきれいだとそれだけで信頼感がずっと増します。」
このように仰ってました。
地図の正確さと綺麗さを両立させること。これがプロの技なのだなと思います。
表現にこだわると地図はおかしくなる。けれどきれいに描く。深い……。
OLKのマッパーは、基本的には反映者なので、地図の調査能力はいらないんです。ただ写すだけ。調査していない範囲のことは調査した人が一番わかっているので、忠実に写すのが一番だと思ってました。しかも当時はまだ2年の夏~3年の春、「現地→地図」「地図→現地」両方のイメージ化が下手で、提出されたクリーンに疑問を抱かなかった。なので本当にもう忠実に写すしかなかった。正確さという意味では間違ってなかったかとは思います。
でも僕自身のこだわりが足りなかったと思います。正確さに綺麗さを両立させることはできてませんでした。
やっぱり今になって、こういうところを作図中に気を付ければよかったなあというのを書いておきます。もしかしたら多くの人にとって当たり前なのかもしれないですが……。
① 意味のある傾斜変換以外は傾斜変換にしない
傾斜変換に意味のない部分はコンタをなるべく等間隔に描く。基本的にコンパスと歩測で地形をとることが多いため、必要のない情報(競技中走っていると地形として情報を拾わない情報)も描かれていることが多い気がします。その描き方以外(見た目こんな風に見えるからそのように描く)は2~3年生では不正確な地図になる危険性の方が大きいと思いますが、描かれたクリーンに本当にその傾斜変換に意味があるのか、小さすぎる地形に意味があるのかどうかは、気を付ければよかったなとおもいます。
一例として「吾妻太田」の地図を修正してみます。
こういうのは多分斜面の向きだけ抑えておけばいいのかも。あとはコンタの間隔。
これでよかった気がする。真偽は定かではない。
こうじゃなくて
こうだったかな。
これくらいなら学生大会の地図も改善の余地がありそう。
② 尾根線、沢線がはっきりしている尾根沢とそれ以外を書き分ける。
「尾根上の補助コンピークをどのように描くか?ともとして素人は楕円形で描きがち」これは昨年度の山リハ前の合宿で松澤俊之さんが山川さんに質問したことです。
矢板の補助コンピークはこんな感じ。
確かに、地形がわかりやすい気がします。
学生大会では楕円でとりがち。
また、山川さんは矢板の「方向を失いがちな尾根」を丸っこく描くと仰ってました。
多分こういうことですね。逆に言うとそういうところは使われやすいとも仰ってました。
また、いわゆる「山ちゃん沢」は見やすさと向きにこだわりが見られる。
尾根線がこうなら
こうかな……少し良くなった気がする……。
③ 藪を細かくとらない
藪はある程度の面積がないと地図としては見にくいんですよね。季節によっても違うし、藪は調査のコストパフォーマンスで考えるとあんまり労力を割かない方がいい。走れるけど見通しが効きににくい藪が一番面倒ですね。走っているとき見た目の藪さをチェックポイントになりそうだとBで描くかどうか、微妙なところです。
OLKの修正調査には大臣制度があって、最後に大臣が地図全体の何かのオブジェクトを統一調査します(岩大臣・崖大臣など)。藪大臣は分担してテレイン中のすべての藪に入るので、精神を病んでしまうことが多いです。お疲れ様です。)
ちょっとどうよくすればいいかはわかりませんが、苦労の跡が見えます。実際この通りだったと思います。
今になって、今年のインカレで、やっぱりプロマッパーの地図ってすごいなと感じました。地図はとても綺麗で整然としていて、情報が頭に入ってきやすいなと思いました。インカレがワクワクする理由の一つです。
インカレ中、地図最高だなってずっと思ってました。(ちなみにここは通らなかった。)
「吾妻太田」のリマスター版を描きたくなってきますね。(描かない。)
まあ山川さんも「矢板日新」のリマスター版を描いていたので、そういうものなのかもしれません。
ここまでグダグダと書いてしまいましたが、でもこれは今になって思うことです。「地図はこれがスタンダード」とか「こうしなきゃいけない」だとかは学生大会の地図では気にしなくていいと思います。参加者に対する思いやりと気遣いをもちつつ、自由に楽しくやりたいようにやるのが、学生大会にとって一番だと思います。大変なこともあるかと思いますが、調査合宿は楽しかったな、大会運営は楽しかったなと思える学生大会が今後とも続いていくことを願っています。
赤城楽しみ。
私は現在日本学連幹事長を務めておりまして、本当は秋インカレ後の閉会式に言いたかったこと、けれどインカレ報告書の挨拶に載せると間に合わないことを一言だけ言わせてください。
「インカレは楽しんだもの勝ち」と言いましたが、インカレで感じたことはきっと「楽しかったこと」だけではないと思います。やりきれない思いも悔しさもあると思います。それらも丸ごとクラブ・部員の仲間と是非共有してください。きっとどの部・クラブにも部誌や会報といったものがあると思いますが、なんでもいいので是非書いてください。オリエンテーリングは基本的には一人で森を走るスポーツですが、一人ではできないスポーツです。その時感じていたことがきっといつか誰かの原動力に変わります。それは同期かもしれないし、先輩かもしれないし、まだオリエンテーリングのことを知らない名も知らない後輩かもしれません。でもきっとそうやってインカレは繋がってきたのだと思います。「インカレは(皆で)楽しんだもの勝ち」だと思います。
ま、書くのが面倒だったら飲みに行けばいいと思うけどね!