オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

トロント(および、カナダ)オリエンテーリング事情

トロントオリエンテーリングクラブ 加藤弘之 

会社の都合で、トロントに二年間滞在している加藤です。この記事が出る一か月後には、日本に帰国していますが、ちょうど良い機会ですので、カナダ・トロントオリエンテーリング事情について紹介したいと思います。異国の地でのオリエンテーリングを経験して感じた、日本の良さ、日本でも取り入れるべきこと、カナダの魅力など、つづりたいと思います。

自己紹介

最初に、自己紹介させていただきます。2002年卒の東大OLK出身です。同期には、Lapcenter管理人で有名な的場さんがいます。他大の同期では、O-support代表の小泉成行さんがいます。永遠のライバルです。日本にいる間は、ES関東Cに所属してました。学生時代は、インカレ2位を3回取るなど立派なシルバーコレクターでした。卒業後、全日本勝ったり、アジア選手権勝ったりしましたが、旬な時期は短かったような気がします。

海外遠征大好きで、これまでにオリエンテーリングをしたことのある国・行った回数は、Sweden・3回、Norway・1回、Denmark・1回、Great Britain・1回、Latvia・1回、Ukrain・1回、Czech・4回、Hungary 1回、Bulgaria・2回、台湾・1回、中国・1回、香港・1回、USA1回、カナダ数回です。いろんな国や、いろんな大会に出ました(JWOC99,2000、ユニバー2002、WOC2006-2010、WC2005、EOC2008、WG2009、O-ringenなど)。そんな海外オリエンテーリングマニアが、カナダのオリエンテーリング事情を紹介したいと思います。

トロントとは?

まず、トロントの基本情報を紹介します。トロントは、五大湖の一つであるオンタリオ湖の脇に存在する北米第4の都市です。人口260万人で、ほぼ東京の1/4程度、横浜市よりも少ないぐらいです。オンタリオ州の州都で、カナダ最大の経済都市です。特徴は、移民が多く流れ込んでいる都市です。世界で暮らしやすい都市、第二位に選ばれるほど、暮らしやすい良い都市です。治安も北米の街の中では、かなり低く(犯罪率は、北米のほかの都市の半分以下、でも、日本の3倍ですが)。町は清潔で、ごみはほとんど落ちていません(ホームレスはたまにいます)。気候は、夏場は、30度を超えますが、冬場は、最高気温が。特に、オンタリオ湖に面しているため、冬場に猛烈な風が吹くので、外に5分もいると死を身近に感じられます。冬の気候以外では、とても暮らしやすい良いところです。トロントには、MLBNBA、NHL、MLSのチームがあるので、一年中スポーツ観戦が楽しめる良い都市です。

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グーグルマップ、ざっくりカナダの大きさを感じてみるために、日本地図を重ねてみた。思ったより、日本長いな。面積は、比べ物にならないですね。

トロントオリエンテーリングクラブ

そんなトロントに二年間住むことになり、オリエンテーリングクラブを探しました。カナダはオリエンテーリングが盛んとは言えませんが、それでも大きな都市にはオリエンテーリングクラブが存在します。トロント周辺にも、トロントオリエンテーリングクラブ(TOChttp://torontoorienteering.com/wp/)、Don’t get lost(という名前のクラブです)、Starsなどのクラブがあり、それぞれ少人数ながらも集まってオリエンテーリングやアドベンチャーレースなどをしています。TOCの総在籍者数は、良くわからないのですが、ウクライナ系移民、北欧、チェコからの移民など、本国でオリエンテーリングをやっていた人が集まって活動しているという印象で、それぞれ本国で培った運営手法(地図調査、コースセットなど)を駆使して、運営されているのが特徴でした。年会費は、30ドルなのですが、練習会参加費割引、水曜日の練習会が無料など特典は満載でした。主な活動内容は、①水曜夜の練習会、②年に二回の練習会③総会(飲み会)の3つです。

 Wednesday-night

まず、一番考えさせられたのが、5月~8月の間の毎週水曜日の夜にトロント近郊の公園、森林公園にて開催されていた練習会です。運営者が、地図を印刷して、ポストの代わりに、赤いスズランテープを巻いただけの簡易な運営で、 毎回、20人程度が集まるぐらいの小規模なもので、皆思い思いの時間に来て走って、三々五々いなくなるので、あっさりとしたものです。それでも、オリエンテーリングのクラブたるものオリエンテーリングの練習をする機会があってこそです。毎週、顔を合わせるということがクラブの活動として重要で、やはり、地域クラブというのはこういうものだよなと、これは日本でも見習うべき点だなと思いました。それぞれは、そんなに面白いテレインでやれるわけではないですが、仲間が集まって同じ時間を過ごす、顔を定期的に合わすというのは大事にしていきたいなと思った点です。

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トロントでは有名な公園 High Parkの地図。5-6の区画には桜があり5月の頭に見ごろになる。

 

春・秋の練習会

4月と9月に練習会があります。以下の地図は、4月の練習会。ロゲインタイプだったのですが、特別ルールが二つありました。

①時間限定コントロール

②First runner's point

一つ目は、M○○と書かれているコントロールには、スタートから○○~○○+10分の間だけ、ヒトが来て、ポストを持っているよ。ということ。つまりM30は30-40分の間だけポストが存在します。それによって、戦略性が高まります。

二つ目は、各コントロールに、ヘアゴムのようなものを置いておき、一番最初にそのコントロールに行った人は、+10点などのような+特典もあります。このような工夫があるのも、熟練した経験ならではだと感じます(この運営はチェコ人が運営していました)。

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 Ontario Cup

冬場11月~2月にかけて、トロント周辺のクラブが共同で運営し、持ち回りの練習会を全4回ぐらいを行います。

 特徴は、ハンデのつけ方です。年齢と、性別でハンデを0-7まで割り振ります。そのハンデに沿って、以下のルールで走ります。

  • 四角に囲まれた区画の中で、ハンデの数を差引した数のコントロールを取る。(ハンデ1の人は、7-1=6個のコントロールを取る)。Dog Boneタイプの場合は、6セットとる。B-bは、どちら向きにとってもOK。でも、Bからbに行く間はほかのコントロールを取ってはいけない。
  • 同時スタート
  • 自分のハンデの数の番号が最初のコントロ―ルになる(ハンデが2の人は、2番からとる。):このルールは、適用されない場合もある。

 

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このコースの場合は、スコアーO形式。最初のコントロールは、ハンデの数。
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Dog Boneタイプ。ルートチョイスをミスって、大きなミス(プラン上では、Ⅽ -G-A-E-F-Dと行くつもりが、Gを飛ばしてしまった)。その上、この日はハンデが強すぎて、シニアクラスに惨敗。

この方式のメリットは、①皆が同時にスタートできるので、競える。スタートの運営が楽②皆が同じ状況で競える。③BOX内である程度ばらける。ということが考えられます。
 参加者数が少ないので、年齢別のカテゴリーで表彰にしてしまうと、各カテゴリーが2,3人しかいないということになるので、こういうハンデ方式が生み出されたのだと思います。しかし、運営の簡素化&皆が競える環境を作るという意味で、とても面白いアイデアだなと思いました。やはり、オリエンテーリングの基本はほかの人と競い合うこと、そのために、いかに異なるカテゴリーのヒトを同じ土俵に挙げさせるか。という工夫だと思います。


オンタリオ選手権

今年は、トロントの隣の年のクラブが運営の持ち回りだったので、気軽に参加できました。オンタリオ州は、トロントと、オタワが中心地で、オタワ周辺の方がオリエンテーリングは盛んです。とはいえ、500-600kmも離れているので、オタワ開催の場合は、なかなか行きづらいのです。

され、オンタリオ選手権の参加者数は、200人にも満たない小さな大会ですが、そのクオリティは素晴らしいです。特に、フォーマットにのっとった適切なコースセットが目を見張ります。ミドルは、テクニカルで、地図とのコンタクトを要求し、ロングはルートチョイスとタフネスさを問うコース。スプリントは、大学構内など、スピーディーで、細かいチョイスとマップコンタクトを要求。このメリハリは、日本ではなかなか見られない徹底ぶりでした。

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オンタリオ選手権スプリント、序盤1-5までのレッグは、本当に難しかった。世界選手権でも通用するレベル。

 

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オンタリオ選手権、ロング。タフさをベースに。ルートチョイスは少な目。

 

以上が、トロント周辺でのオリエンテーリングの機会です。これ以外は飛行機に乗って、他州の大会や練習会に行かなければいけません。私は、関東での生活しかしたことがないので、この状況はとても寂しいものでした。やはり、関東圏でのオリエンテーリング事情が如何に恵まれているかということですね。上に挙げた隣の都市のクラブというのも、100km以上ぐらい離れているので、関東から静岡や日光に行くぐらいの距離感ですし、関東圏というのは人が多くてよいです。

 

カナダオリエンテーリング事情

続いて、カナダのオリエンテーリング事情も紹介します。

人口:全体の人口は良くわかりませんが、カナダ選手権の参加者数は、400人ぐらいです。オリエンテーリングの人口自体はそれほど多くないのですが、そもそものカナダの総人口は、3600万人、関東平野の人口ぐらいです。人口比でいえば、同じような物かもしれません、物好きが発生する割合というのはそんなものなのかもしれません。

 

レベル:カナダでのオリエンテーリングについての事前情報といえば、世界選手権で、よく同じような成績を取っているなということぐらいでした。でも、いまは、差をつけられようとしています。女子のEmilly Kemp(Emily Kemp - World of O Runners)は、今年の世界選手権ミドルで4位になりました(最後の2レッグ前まではトップ)。とはいえ、彼女は北欧在住なのですが。

 

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カナダ選手権ミドル会場風景:完全なる青空会場。駐車場から2kmぐらい歩く。雨だったらどうなったことやら。ちなみに、熊スプレーは必携品。ロングのテレインでは熊が確認されたため、開催日の一週間前にテレインを変更するという徹底ぶり。それでもロングを開催できてしまうあたりに運営慣れ感がある。

 

f:id:orienadvent:20161128123227j:plain子守のため、妻のゴールを待ってから走ったので、スタートに10分ぐらい遅刻しましたが、20分ぐらいの差で優勝しました。でもカナダ人じゃないので、表彰対象外。商品だけもらいました。M35A。隣の人たちのでかさたるや。

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Western Canadian orienteering championship 2015 ロング:大したテレインではないが、ロングらしいルートチョイスとタフさを問う良いコース

 

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f:id:orienadvent:20161128111045j:plainWestern Canadian orienteering championship 2015のミドルの森と地図:とても難しくて楽しい森でした。北欧を走っているかのようです。湿地がないので、北欧よりも走りやすくてナビゲーションの喜びを味わえる素晴らしいテレイン。(2018年の北米選手権でも使われるようです。おすすめ!)

 

カナダオリエンテーリングの資金調達の工夫

カナダのオリエンテーリング人口は、日本に比べても少ないような気がするのに、参加費は、日本よりも安いような気がするし、その割には、素晴らしい地図と運営が提供されていました。資金源がどうなっているのか、わかりませんが一つの資金源として、ドネーション&オークション、ナショナルチームウエアの販売があります。

ドネーション&オークション

まず、参加者から不要になったものを寄付で集めます。その後サイレントオークション(紙に、買い取りたい額を書いていき、一番高い金額を書いた人が買いとる)によって、現金化しその収益を協会に寄付するというやり方です。カナダではメジャーなやり方のようで、娘が通っている保育園でも同様のドネーションを集めていました(実際には、企業に、寄付(商品券など)を募り、それを販売して収益を集めていた)。また、カナダのオリエンテーリングストアとして、O-storeというものがあるのですが、そこがナショナルチームウエアを作る代わりに、それを販売しその収益をナショナルチームに寄付をするというやり方でした(我が家も娘に一着買いました)。

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サイレントオークション:ほしいの物に、自分の名前と金額を書く。制限時間になった時に最高額を書いていた人が買い取る。お金は寄付へ。

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バンケットの様子、壁沿いに商品がおかれて、サイレントオークションが行われている。

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カナダのナショナルウエア・デザインがいい。さすがに私は着にくかったので、娘に購入。85ドル(6500円ぐらい)

 

 カナダに遠征するなら?

と、ここまでカナダのオリエンテーリングについて紹介してきましたが、実際に、オリエンテーリングをするためにカナダに来るか?と思った方のために。

日本からだと、北欧や東欧に遠征するのと同じぐらいの時間がかかります。なので、オリエンテーリング目的だと、カナダを選ぶのはなかなか難しいなと思うのが第一。でも、カナダの自然との組み合わせによる観光旅行はお勧めです。とくに、カナダの西側で開催されるカナダ選手権、もしくは北米選手権はおすすめです。たいてい、カナダ選手権と西カナダ選手権が連続した週末で開催されるので、その間を観光に使うことができます。カナダが誇るロッキー山脈は、山好きにはたまらない観光地だと思います。我々も、カナダに滞在する直前の2014年夏にカナダのウィスラー(バンクーバーオリンピック開催地)での大会、および、今年のカルガリーでの2016年夏のカナダ選手権に参加し、オリエンテーリングとロッキー山脈の雄大な景色を堪能しました。 

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スマホのカメラで、こんな感じ。現物を見るべし。Lake louise。

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この日は曇っていたので。暗いですが。良いところです。

 

 

まとめ

オリエンテーリングを始めてから、ヨーロッパ各国、中国、台湾など、オリエンテーリング遠征をたくさんしてきましたが、一か所に滞在し、その国のオリエンテーリング文化を堪能するという経験は初めてで、いろいろな経験・視点を得ることができました。カナダと日本のオリエンテーリング環境を比較することで、日本の良さもわかりました。まず、オリエンティアがいっぱいいる。特に、若い人が‼。オリエンテーリングなんてマイナーなスポーツだよね。と、思いますが、それでもカナダよりも多いですし、年中楽しめますし、毎週のようにオリエンテーリングの大会・練習会があるという環境はやっぱりすごいと思いました。

その一方で、カナダ・トロントのよかったところは、毎週水曜日にオリエンテーリングする機会があったということ。やっぱり、地域クラブたるもの、毎週のように顔を合わせる機会があるということ、オリエンテーリングの練習をすることがあってこそだと思いました。日本でそれを実現するのはなかなか難しいですが、何か工夫をしていきたいと思います。やっぱり、オリエンテーリングしたいですよ、平日も。だって、道路走るのはつまらないですから。帰国後、川崎~横浜北部を中心とした地域クラブを発足させたいなと思っています。平日夜に集まってオリエンテーリングをやるような活動を。

オリエンテーリングのために、カナダを訪れようと思う人はほとんどいないと思いますが、ぜひ、ロッキー山脈と合わせての遠征は良いものになるとお勧めできます。2018年の北米選手権はユーコンで開催されます。またたぶん2019、2020年あたりは、カナダ選手権がロッキー山脈のふもとで行われると思いますので、それも、おすすめです。

参考:North American championships @ Yukon 2018 August 17-22, 2018 (http://yukonorienteering.ca/naoc2018/

 

最後に

トロント・カナダのオリエンテーリング事情について書かせていただきました。長文でしたが、何か面白いなと思ったり、参考になる点などあれば幸いです。とりあえず、2年間離れていたので、日本でオリエンテーリングをするのが愉しみですし、日本のオリエンティアの人と話ができるのが待ち遠しいです。

練習会を開こう! ~10(8)回練習会責任者より~

 こんにちは、こんばんは。慶應義塾大学4年生の小泉知貴と申します。前2人がとてもいい記事を書いてくださっているので、私が後を引き継ぐのは大変恐縮ではありますが、是非気楽に読んでください。

 先日、Advent Calendarの企画の立ち上げの立役者である田中基成君から、記事の執筆依頼をいただきました。おそらく彼は私の日本学連幹事長という立場からの記事を期待していたと思われます。その期待に応えたいところではありましたが、日本学連というスケールの大きいものを私ごときが扱えるわけもない(そもそも、日本学連の全貌を把握しきれていません…)ので、表題のような内容にしました。

 私は今年度、10回練習会というイベントを開催しています。その内容は、名前から見てわかるように、1年間に10回練習会を開こう、というものです。諸事情により、第9回と第10回は開催することができなくなってしまいましたが、ちょうど本日、第7回練習会を無事終了することができました。1/21に最終回が行われます、皆さん、ぜひご参加ください。

 

 さて、これから書く記事は、ざっくり言えばもっとみんなで積極的に練習会を開いていこう、というものです。どちらかというと学生向けの記事になってしまいますが、ご了承ください。

 

オリエンテーリングで速くなるためには?

 皆さんはオリエンテーリングで速くなるために必要なことは何だと思いますか?諸説ありますが、一番大きな要素を示すのは、間違いなく「オリエンテーリングの数をこなすこと」だと思います。どんなに色々と理論を考えたり、トレーニングをしたり、地図読みに精を出したとしても、山に入る経験が少なければ、それらを活かしきることはできません。他のスポーツでもそうですが、練習をしなければ上手くなれないと思います。オリエンテーリングの場合の練習は、山に入らなければ行うことができない、という特徴がある(スプリントはちょっと違いますが)ため、ある程度山に入る回数を増やすことは、速くなるためには必須の条件になります。

 とはいえ、山に入ることのできる機会は決して多くはありません。なぜなら、日本にいる以上、基本的にオリエンテーリングは休日にしかできないからです。オリエンテーリングを行える環境は生活圏から少し離れた場所にあることが多く、平日の学校・仕事終わりに…といった感じで行くことは困難です。なので、オリエンテーリングをするのは、基本的に休日に開催されている大会に参加することが主になります。とはいえ、大会では基本的にレースを一本走っておしまいです。つまり、オリエンテーリングができる回数というのは非常に限られているのです

 その改善策の一つが練習会に参加することだと思います。練習会ならば、山に長くいることができるため、レースを走るだけでなく復習もできたり、またレース以外にもメニューをこなしたりなど、一日に何度もオリエンテーリングをする機会を得ることができます。コーチの方や先輩がいれば、時間を見つけて直接指導していただくこともできるでしょう。色々な団体が試行錯誤して提供してくださる大会も非常に魅力的ではありますが、オリエンテーリングの成長という観点から見れば、練習会のコストパフォーマンスの高さは多くの人に納得していただけるかと思います。

 

〇練習会の要素

 一言に練習会といっても、その内容はそれぞれで大きく異なってきます。スプリントだったりフォレストだったり、近郊で行ったり少し遠いところまで足をのばしたり…というように、練習会には色々な形があると思います。また、先日東大OLKが行ったゴリラ杯(アップ率15%越え)のようにコンセプトが明確な練習会も稀に開かれています。

 当たり前のことではありますが、多くの人が参加したい!と思う練習会は、参加者のニーズを満たすことができるものです。そして、私が思うに、そのニーズは大きく分けて、「開催地・参加費・開催時期(タイミング)・コースの質・コンセプト」になると思います。具体例として、私が今年開催した練習会について、これらの要素を列挙してみます(コースの質は除きます)。

 

第1回「テスト期間息抜き練」…93人・東京(公園)・500円・テスト期間

→テスト勉強の息抜きに、さくっと走れるスプリント練習会。

第2回「スプリントセレ対策練」…121人・東京(公園)・1000円・セレ直前

→セレクション前に、本番を意識した対策練として。

第3回「新入生向け練習会」…44人・埼玉(山)・500円・8月中旬

→一年生がオリエンテーリングを楽しめるようなメニューを用意。

第4回「日光指導練習会」…67人・日光(山)・1200円・10月初旬

→超豪華コーチ陣をお招きして、一日指導を受けられるような練習会。

第5回「帰ってきたKOLC復活大会」…201人・矢板(山・リメイク)・1800円・インカレ1月前 ※大会形式

→昨年度KOLC大会の行われたテレインの完成版を公開(完成しなかった)。

第6回「インカレスプリント対策練」…92人・東京(公園)・700円・インカレ1週前

→インカレ本番直前の最終調整の場を提供。

第7回「ミドルセレ対策練」…96人・日光(山)・1500円・セレ2週前

→ロングからミドルへと切り替え、セレクション本番に備える。

 

 複数の練習会を開催していて、「参加費以上に、開催時期やコンセプトの方が大事である」ということに気づきました。一概にいうことはできませんが、開催時期に合わせたコンセプトで練習会を開く、ということが一番参加者のニーズを満たすことにつながるのかもしれません。実際に遠方の開催で、かつ参加費も少し高めの帰ってきたKOLC復活大会でも、インカレ一か月前の矢板ロングという要素も相まってか、200人以上の参加者にお越しいただいております。また、私の練習会では、対策練という形をとっているものが多くはなっていますが、それ以外にもテスト期間息抜き練という(ふざけたタイトルの)練習会にも100人弱の人の集まっていただくことができました。この時はそれ以外に練習会がなかった事が、参加者が集まった一番の理由ではありましたが、このことは、全ての人が参加するわけではない遠征の裏での練習会も、一定のニーズがあることが予想できます。

 今後、練習会を開くときには、これらの要素を意識してみてはどうでしょうか?開催時期に考えられるニーズを早い段階で察知して公報・提案すれば、たくさんの人が来てくれるかもしれません。

 

〇練習会を開こう!

 練習会の重要性とその要素をここまで書いてきましたが、それを理解したとしても、「さぁ、練習会を開こう」、とはならないかと思います。その理由は、「申請や準備が面倒くさい」「いいコースを組める自信がない」「練習会を開いても自分の練習にならない」などが考えられるかと思います。他にもあるかもしれませんが、ここではこの3つについて考えてみます。

 

・申請や準備

 おそらく、一番練習会でネックになってくる要素かもしれません。大会などとは違い、メインの運営役員が少ないがために、これらが負担に感じる人はいると思います。しかし、ちゃんとやることがわかっていれば、準備は大きな負担にはなりません。

 やるべきことを時系列にまとめてみます。

 

1~2か月前…練習会の開催日程・開催地・コンセプトなどを決める

        開催地の県協会と、地図版権所有団体(学生はここに加えて学連)に申請

1か月前…要項・エントリーシートの用意→公開

3~4週間前…コース組み(+必要があればコースコントロール)

1~2週間前…エントリー締め切り→エントリー・スタートリスト・プログラムの作成→公開

3~5日前…資材・運営役員割り振り

当日…設置・運営・撤収

数日後…報告書提出、地図代振り込み

 

 詳しい方法などは場合により違いますが、おおまかにはこのような形になるかと思います。やることが多いように見えますが、その時その時にやることは決して多くありません。しっかりとスケジュール管理をしていれば負担は少なくなります、慣れれば簡単に準備することができます。

 

・コース組み

 少なからず、自分で組むコースに自信がない人はいると思います。一生懸命組んだコースであっても、参加者があまり楽しんでくれないと、かなりへこみます。正直、練習会を開くことと、コース組みの慣れは別物であるといわざるを得ません。

 しかし、ここについては他の人を頼ってしまってもいいと思います。コース組みが得意な人に委ねるもよし、だれかにコースコントロールをお願いするのもありです。どうしても自分でコースを組みたいのであれば、練習しましょう。コースはいくらでも用意する手段があるので、これを理由に練習会開催を諦めてしまうのは非常にもったいないと思います。

 

・自分の練習について

 よく、「自分で組んだコースを走っても練習にならない」「設置をしてしまうと覚えてしまうから、意味がなくなる」という人がいます。確かに、初めてその地図を読む人よりはアドバンテージが生まれてしまいますし、それが原因でナビゲーションが容易になってしまう要素があることは否めません。

 しかし、だから練習にならない、という観点は間違っていると思います。仮にルートやポスト位置を知っていたとしても、ナビゲーションの練習には十分できます。というか、オリエンテーリングはそんなに単純なスポーツではありませんよね。ルートを知っていたところで、実際にプラン通りにたどることは容易ではありませんし、また、ポスト位置を知っていたとしても、それはリロケートが容易になるだけでナビゲーション自体には影響を及ぼしません。

 いずれにせよ、コースを組んだり、設置をしたからといって練習が全くできなくなるわけではありません。普通にまっさらな状態でオリエンテーリングするのとは事情は異なりますが、それを理解したうえで練習すればいいのではないでしょうか。

 

 練習会を開くことは決して難しいことではありませんし、自分の練習も十分することができます。…と、デメリットと考えられる要素に対しての反論を書いてきましたが、メリットになりうる要素もここに書いておきます。

 まず、一番大きいのは達成感です。周りの人にとっては、数ある練習会のうちのひとつかもしれませんが、主催者側にとっては長い間色々と試行錯誤をしてきたものであるため、思い入れは強くなります。終わった後に、参加者から「楽しかったよ」と一声かけていただくだけで、努力が報われた気になります。よく、東大OLKの皆様がよく、帰る前に主催者にあいさつをしてくれますが、本当にこれは嬉しいです。これが練習会を開く一番の目的であるといっても過言ではありません。

 次に、運営やコース組みの技術が高まります。オリエンテーリングをする以上、ただ競技をするだけではなく、運営をする機会も多くあります。具体的には所属団体主催の大会やインカレ運営、全日本大会の運営などが考えられるでしょう。この時に、最低限の知識として練習会運営の経験は必要になると思います。また、実際に自分が組んだコースを走ってもらった感想を聞くことは、机上でコース組みの練習をすることの何倍もの価値があります。そして、コース組みのセンスが高まれば、予想コースなども質がいいものが組めるようになり、結果として狙った大会でいい記録を残すことに役に立つことでしょう。

 最後に、少しいやらしいですがお金を稼ぐことができます。私が開いている練習会は、オリエンテーリングの機会を提供するということとは別に、私の所属しているKOLCの大会資金を稼ぐ、という目的もあります。最終回の見通しがまだ立っていませんが、おそらく8回で30万円近くになる見込みです(本当に、参加してくださっている皆さん、ありがとうございます)。

 

 以上のように、練習会を開くことは、確かに大変なこともありますが、多くの人が喜んでくださる場を提供できるだけでなく、自分自身の成長の機会も得ることができます。是非、練習会を開くことを検討してみてください。

 

〇最後に…

 突然ですが、私の夢について書きたいと思います。それは、「だれもが毎週オリエンテーリングを楽しめる環境を作る」ということです。これは、私が関東学連の幹事長に就任したときに表明したことなのですが、残念ながらそれを現役中に実現することはかないませんでした。毎週全国のどこかでオリエンテーリングのイベントが開催されていますが、全てに参加するにはお金と時間がいくらあっても足りません。なので、それとは別に裏で練習会を開き、遠征に行けない人は近場でオリエンテーリングを楽しむことができる、そのような環境が私の理想です。

 完全に実現できるとは思っていませんが、少しでもこれに近い状態になればいいな、と思い、今回の記事を書かせていただきました。私の練習会のように公開練習会を誰かが開くのでもいいですし(10回練習会後継者募集中!!交代制などでも!!)、そうではなくとも、各団体がそれぞれ練習会を開き、そこに他団体の人を招く、という形でもいいと思います。オリエンテーリングをしたいときに、そこにイベントがある、とても魅力的な環境だとは思いませんか?

 最初に書きましたように、オリエンテーリングで上達するためには、数をこなす必要があります。練習会が増え、毎週のようにだれもがオリエンテーリングをできるようになれば、日本の競技レベルは上達し、より公認大会や全日本大会も盛り上がるようになると思います。是非、皆さんも練習会を開きましょう!!