オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

JWOCミドル予選とGPSアナリシス

こんにちは。KOLC47期、横浜国立大学3年の稲森剛です。

 

4種目5レースあるJWOCの中で、唯一の予選レースであるミドル予選について書かせていただきます。JWOCミドル予選は、僕が初めてJWOCに出場した2014年の時から最後のJWOCであった今年まで、僕がオリエンテーリングにおいて最大の目標にしてきたレースです。

 

JWOCのミドル予選では、男女それぞれ3コースに分けられ、各コースで

20位以内:A決勝

40位以内:B決勝

それ以下:C決勝

となります。

 

IOFの記録まとめページ(

Junior World Orienteering Championships : International Orienteering Federation

)で調べてみた所、1990年に開かれた第一回JWOCの翌年からミドル競技の前身のショートが予選決勝方式で行われ、今と同じ3レーンの上位20人がA決勝となっていたようです。2004年からミドルに名前が変わりました。A決勝に出場した日本人は今のところいないと聞いています。

 

 そして翌日の決勝では、BC決勝は男女同時各コース1分間隔スタートでささっと済まされるのに対し、A決勝は男女で時間がずらされている上に、2分間隔スタートと観戦しやすいようになっています。実況や観戦はJWOCの全5レースの中で最も盛り上がります。A決勝にだけスペクテーターズレーンがあることも多いです。

 

 この特別な舞台を初めて見たのはJWOC2015ノルウェーの時でした。決勝の会場はオープンの斜面にあり、大型のスクリーンが設置され、フィニッシュとスペクテーターズレーンがスクリーンの前にあるという最高の観戦環境でした。

  

↓↓JWOC2015ミドルのハイライト動画。実況も入っていてその盛り上がりを感じられると思います。 


JWOC 2015 Middle Men

 

 B、C決勝が終わった日本チームはA決勝の観戦をしました。走り抜ける選手の速さ、会場の盛り上がり、スクリーンに映し出されるGPSやTVコントロールからのライブ、何もかも特別な感じがして、この舞台を走る側になれたら最高だろうなと思い、2年かけてミドル予選を目指すことにしました。

 

そして2年が経ち、今年のJWOC。ミスもありましたが最小限に抑えられ、自分なりのベストレースが出来ましたが、予選通過には1分44秒も届きませんでした。結構近くまで行けたようにも見えますが、全然まだまだだったなという感想です。でも、予選通過を争う選手たちに混じれたことも、去年まではレース中後ろの選手に抜かれる事の方が圧倒的に多かったのに対して、今年は抜かれるより抜く人数の方が多かったことも、レース中周りの選手たちと同じペースで走れてたことも嬉しかったです。

 

 

 

 さて、ここから本題に入ります。

 

 今年のJWOCでは選手全員にGPSが付けられました。そのGPSのルートはインターネット上で再生できるだけではなく、全ての選手のルートをGPX形式のファイルでダウンロードすることが出来ます。自分のルートだけでなく、オヤナホのルートをQuick Routeで分析することも出来るのです。

 

 

 そこで、JWOC2017ミドル予選男子1組、1位のOlli Ojanaho(JWOC2014-2017で金6銀1銅2の物凄い選手)、A決勝ボーダーの20位であったモルドバのAnatoli Fomiciovと、僕のGPSをQuick Routeで比べて見ることにします。ペースでの色分けは、次の画像のように4:00/kmで青、8:00/kmで赤としました。

 

f:id:orienadvent:20171213114407j:plain

 

これから比較する3人のレースタイム

Olli Ojanaho FIN 1位 21:18

Anatoli Fomiciov MDA 20位 27:00

Go Inamori JPN 28位 28:44

となっています。Ojanahoさんは2位と2分の差を付けるぶっちぎりの走りでした。

 

ミドル予選男子1組はこんなコースでした。

f:id:orienadvent:20171212212606j:plain

ミドル予選男子1組のコース

 

 

 

ペースについて

f:id:orienadvent:20171213114653j:plain

ペースの割合(横軸を合わせたかったのですが、できなかったので無理やり合わせました。見にくくてすいません)


Ojanaho選手とは、山の位置が全然違いますし、トップスピードで走れている割合や減速している割合も全然違う事があらためて分かります。20位のFomiciov選手と比較しても、予選通過のためには山の位置を30秒/km程度上げる必要がありそうです。

 

 

 

スタートフラッグまで

次は、普通のラップ解析では見ることのできないスタート枠からスタートフラッグまでのスピードを見てみます。①スタート直後のペース ②平均ペース ③最高速の3点と減速箇所について見ました。

 

まずは20位のFomiciov選手。

f:id:orienadvent:20171213114913j:plain

Fomiciov選手は、①4:32/km②4:38/km③3:33/km。スタートフラッグ前後でしっかりと減速している様子が見られます。

 

次に僕。

f:id:orienadvent:20171213114940j:plain

①5:40/km②4:54/km③3:26/kmでした。たぶんS→1を読んでからペースを上げて走り出したんだったと思います。最高速はトラックでの3000mTTのペースよりも速く、かなり力んでいるように見えます笑

 

そしてOjanaho選手。

f:id:orienadvent:20171213115013j:plain

①3:40/km②3:31/km③2:35/km。別次元のスピードでした。スタートフラッグまで全く減速する所が無く、最高速度は50m走で7秒に相当するペースです。

 

 

 

4→5

最もOjanaho選手のルートが意外だったレッグです。このレッグどうしますか?

f:id:orienadvent:20171213115103j:plain

 

Fomiciov選手と僕は真っすぐに行くルートを選びました。というか僕には真っすぐルートしか見えていませんでした。しかし、Ojanaho選手は右回りでピークを辿ってコントロールへ。

 

f:id:orienadvent:20171213115143p:plain

左からOjanaho選手、Fomiciov選手、僕のルート

 たしかに右巻きルートだとコントロールまで自信をもって走れるし、崖の下のコントロールなので上から行くよりも巻いた方が見つけやすいです。実際に僕は、崖の下にあるということを意識していなかったので、コントロール手前で減速してキョロキョロしてしまいました。また、5→6のルートを読んでいて脱出をスムーズにするために4→5を右回りにしたのかもしれません。

 

f:id:orienadvent:20171213115250j:plain

5ポをパンチする瞬間(左からOjanaho選手、Fomiciov選手、僕)

 この画像の青線位置は、5ポをパンチしたタイミングのペースなのですが、Ojanaho選手は減速した様子が全く見えません。ほとんどタッチフリーのようなパンチをして駆け抜けているのでしょう。Fomiciov選手もパンチ前に崖の上で減速していたようですが、コントロールをパンチ後はすぐに脱出しています。一方で僕は、番号を確認してパンチして5→6のルートを読むのに6秒もかけていたようです。遅すぎる。

 

 

 

6→7

僕がこのレース最大のミス(ミスタイム45秒)をしたレッグです。

f:id:orienadvent:20171213115513j:plain

6-7 稲森のルート

 円の中の岩に隣接コントロールがあって釣られてしまいました。イメージ通り出てきたのに、70であるべき番号が140だったので、間違えて2倍の数字を設置してしまったのかと思いました。冷静に考えれば、道の曲がりからアタックして植生界の傾斜変換にある岩は1つだけなので、すぐにリロケートできたはずです。

 

GPSを再生してみると、このコースを走った選手の半分以上がここに引っかかっていますが、ほとんどの選手はすぐに判断して正しい所に行っています。冷静さと周囲の特徴物の把握が足りませんでした。

 

f:id:orienadvent:20171213115611j:plain

Ojanaho選手(左)とFomiciov選手(右)は、登り切った所で少し(5秒程度)止まった後、正しい方に向かっています。レース中このように戸惑うことは必ずあります。こういう時に、素早く的確に対応できるようになるためには、アタック前にコントロール周りの地図を少し広く見てイメージしておくことや、実際の周囲の景色をよく見ておくことなどが必要だと思います。お絵描きとかもっとやるべきだなと思いました。

 

また、僕は道からピンポイントでコントロールを狙いましたが、Ojanaho選手(左)とFomiciov選手(右)は右にエイミングオフをしています。簡単に速くコントロールに行けるルートが見えていませんでした。

 

 ちなみに途中の道走りのペースは、Ojanaho選手が2:50~3:20/km、Fomiciov選手が3:40~4:00/km、僕が3:45~4:10/kmくらいでした。200mちょっとの道走りなので、Ojanaho選手とは10秒程度、Fomiciov選手とは2秒程度の差が、この道走りだけでついていることになります。秒差の戦いなので、ここでの1秒も惜しいです。

 

 

 

Eカードのパンチスピード

このレースではEカードが使われました。9番コントロールはアタックも脱出も簡単で、カメラマンが目立っており非常に簡単であったため、パンチの速度を比べられそうです。

f:id:orienadvent:20171213115708j:plain

9ポ パンチ前後のペース(左:Ojanaho選手、右:稲森)

 画像ではグラフの縦軸が写っていないですが、Ojanaho選手は一瞬5分/kmに達したくらいである一方で、僕は8分/kmに達したくらいと、パンチの瞬間3分/kmの差がついています。6-7の道走りのペースで見たように、ただ走るだけのペース差は1分弱/kmであることから、パンチ前後の動きでも差を付けられていることは間違いなさそうです。パンチの動きなら日本に居てもいくらでも練習できるので、こういう所では差を付けられないように出来るはずです。

 

 

 

9-10

このレースで最も綱渡りをして、2番目にミスタイムを計上してしまったレッグです。

f:id:orienadvent:20171213152044j:plain

9→10 左からOjanaho選手、Fomiciov選手、僕

走ることと前を走っている選手を抜く事に意識が向きすぎていて、道を離れた後どうするのかを全然考えていませんでした。「やばいやばい」と思いながら歩測とコンパスと耕作地との距離感だけでフワフワと進んで、かろうじてたどり着きましたが危なかったです。自信を持ってスピードを上げられてかつ距離が長くもない“切り開き―尾根に沿って行くルート”が間違いなく正解でした。予選通過したいなら見逃してはいけないルートだったと思います。

 

4-5や6-7と同様、簡単に確実に速くコントロールが見つけられるルートを見出す力が弱いなと感じます。海外の難しいテレインの難しそうなレッグでも、分かりやすい特徴物を上手くつなぐことで、自信を持って速く走れます。そういうルートを見出す力がまだまだだったと思います。

 

 

11-12-13-14-F

11-12で僕は分岐で減速してコンパスを見ましたが、Ojanaho選手は減速するどころか下りの勢いで加速しているようです。僕にとっては不安を感じるコントロールでしたが、Ojanaho選手にとっては間違いなくたどり着けるコントロールなのでしょう。高さや切り開きの向きに対する進むべき方向の意識で自信を持っているんじゃないかなと思います。

 

f:id:orienadvent:20171213152313j:plain

11→12→13→14→◎左からOjanaho選手、Fomiciov選手、僕

11からフィニッシュまでのタイムは、Ojanaho選手が2分11秒、Fomiciov選手が2分48秒、僕は2分52秒でした。予選通過者(20位以内)の平均は2分40秒で、僕より遅かった予選通過選手は3人のみでした。このことからも体力的にまだ予選通過には足りなかったなと思います。

 

 

まとめると、

・いまJWOCミドル予選を通過すれば、日本人初のA決勝進出者になれる

・ミドルA決勝はJWOCの中でも特別な舞台

・ナビゲーションしながら走るスピードが僕よりも30秒/km程度速くなれれば予選通過ライン

・コントロールで止まる時間やパンチの速度など、日本でも練習できる部分で結構速くなれそう

・自信を持って速く走れるルートを見出す力

といった感じでしょうか。大変ですが、ミドルA決勝の舞台を走れたら絶対に最高なので、これからJWOCに行く選手にはミドル予選通過を目指してほしいと思っています。

 

 

僕は今も、“予選を通過した選手だけ走れる決勝“に魅力を感じています。フォレストとスプリントでWOCが分かれるとフォレストの予選が復活するそうなので、狙うかもしれません。

 

 GPS

 今回↓↓のサイトからGPSデータをダウンロードしました。

https://www.tulospalvelu.fi/gps/

WOCとかWorld Cup、スキーOなどいろいろなGPSを2DRerunで見ることができます。いろいろなコースで海外のトップ選手のルートが見られるので面白いです。

 

また、今回のようにGPXをダウンロードできるので、例えばこんなことも

f:id:orienadvent:20171213155546j:plain

WOC2017Middle 上:Thierry Gueorgiou 下:Olli Ojanaho

今年のエストニアWOCミドルにけるフランスのThierry GueorgiouとOlli Ojanahoの比較です。JWOCであれだけ圧倒的であったOjanahoよりも更に速いです。

 

 

 

おまけ1

JWOC2000

 過去のJWOCを調べていたら、2008年以前のJWOC公式WEBサイトはほとんど消えてしまっていましたが、2000年のチェコJWOCのサイトだけはまだ生きていました。加藤さんや番場さんが出場した年のようです。

http://www.orienteering.cz/jwoc2000/index.html

17年前のブリテン、スタートリスト、リザルト、地図、ラップタイム、写真が見れます。”Video simulations of real runs courses of leading racers”なんてファイルも残っていました。トップ選手のルートがアニメーションで見られるのだと思いますが、残念ながら僕には再生できませんでした。

 

ブリテン4にはCD-ROMという項目があり、大会後にはリザルトや地図、さっき紹介したsimulationなどが入ったCDが販売されたようです。こういう記録は物にせずにWEBやパソコン上に残っていても後々振り返らない事が多いので、今でもやって欲しいなと思いました。

 

↓↓VIPレース(今でいうオフィシャルレース?)のスタート

f:id:orienadvent:20171213152806p:plain

VIPレース(今でいうオフィシャルレース?)のスタート

↓↓男子ショート予選の地図

f:id:orienadvent:20171213152954p:plain

男子ショート予選の地図



 

 

おまけ2

全然話が変わりますが、どうしても書きたいのですいません。

KOLC大会の魅力①

~国内では他に類を見ない高難易度テレイン~

初めて行く未知の森の中、溶岩流により形成された複雑な地形の上で、地図とコンパスと自分だけを頼りにナビゲーションをする。オリエンテーリングが楽しめるテレインです。下の動画はまだ紹介動画“予告編”です。紹介動画“本編”も作成中です。お楽しみに。


第7回KOLC大会 紹介動画予告編

 

KOLC大会の魅力②

~テレインがとにかく美しい~

競技の進行とともに移り変わる幻想的な景観の中を走ることが出来ます(テレインプロフィールより)

f:id:orienadvent:20171213153739j:plain

テレイン内(大会公式サイトより)


 KOLC大会の魅力③

~復活後初の自前調査~

西村さんに調査を教わり、一昨年KOLC大会が復活して以来、初めてKOLCで一から調査作図を行っています。始めは調査が全然進まず地図できないんじゃないかとも思っていましたが、気が付けばほとんど調査は終わっていて、試走ではちゃんとオリエンテーリングが出来ました。

 

KOLC大会の魅力④

~マッパーとコースプランナー~

調査責任者は伊藤樹、作図責任者は上島浩平、コースプランナーは伊藤樹です。そろそろ知っている人も多いかもしれませんが、上島の作図に対する知識とこだわりはインカレ作図競技部門があったら圧勝できるであろう高さです。また、伊藤樹の調査やコースセットにおけるセンスも光っています。

 

KOLC大会の魅力⑤

~わさびが美味しい~

テレインのすぐ下の谷にはわさび田が入り込み、筏場の集落には何軒ものわさび直売所があります。調査合宿では毎回のようにすりおろしていただいています。採りたておろしたてわさびの香りは最高です。

f:id:orienadvent:20171213153950j:plain

 

KOLC大会の魅力⑥~⑨

サンスーシ大会(両方参加で参加費割引!)、温泉たくさん(修善寺湯ヶ島、伊東、熱海、箱根、湯河原)、ワイナリー、山も海も綺麗

 

KOLC大会の魅力⑩

~ヘリコプターで行ける~

ヘリコプターで行きたい方がいましたら、ご相談ください。伊豆ハイツゴルフ倶楽部のWEBサイトの下の方をご参照ください

 

最後まで読んでくださりありがとうございます。オリエンティアAdvent Calender12月13日は以上です。ありがとうございました。