オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

僕の地図調査史を振り返りながらGPSの話でもしようか

どうも。東北大09入学の中村憲です。田村の同期と言ったほうが分かりやすいでしょうか?

今日の記事では、僕が経験してきた地図調査の経験を通してGPSなどの利用法を紹介していきたいと思います。

東北大大会はちょうど僕のいた時期が調査技術の過渡期でした。歩測中心の調査からGPS,航空レーザー測量原図の調査に変わっていきました。そんな訳で、自分の調査の思い出話を通じて、GPSの種類や、使い方などを紹介していこうかなと思います。

2009年-入学

東北大に入学して、オリエンテーリング部に入部。

この年の東北大大会はハミングの森(地図名は音和山でしたが試走中ハミングと読んでいたので、ハミングの森の方が個人的にしっくり)この大会では地図づくりには関わっていませんが、先輩たちを見てとにかく地図調査って大変なんだなと思いました。

この時点では、東北大はGPSを導入していません。地図調査は歩測で道などの骨格を取るっていう部分が肝心で、ここで歪みが発生すると大変だったようです。同期全員で調査する上に歩測で骨格を取るということで、境界合わせも大変そうでした。原図の情報量にもよりますが、歩測とコンパスの正確さが、地図の進捗に決定的な影響を与えていた時代です。

参考:みんなでハミングすればヤブくない!?-第32回東北大学大会 - Orienteering News in Japan

 

2010年-初めての地図調査

この年の東北大大会は荒浜でした。冬くらいから、1年生も練習を兼ねて調査に駆り出されます。東北の冬なので、寒くてつらい時期ですが、植生がいいこの時期に地形をしっかり調査できていると夏休みが楽になります。調査で凍えた後のコンビニの肉まんが美味しいんだよなぁ。

 ちなみに東北大の地図調査は基本的に自転車か原付きで通いです。私は原付きを持っていなかったので、自転車でした。どのテレインも大体10km以上あるので、往復は結構しんどいです(自転車圏内にテレインが複数あるというのは恵まれた環境ではありますが)。この年は試験的にGPSを使ったようです。が、どんな機種を使ったか、僕は把握していないのですが、あまり役に立たなかったとのこと。

ちなみに、ご存じの方も多いかと思いますが、このテレインは津波で消失しました。あの震災があと1年早ければ地図調査中の部員が巻き込まれていてもおかしくなたったと思います。この辺の被災地域の一部は防災公園になるそうなので、もしかしたらいつかまたここで東北大大会が開ける日が来るのかなぁ…

参考:海岸テレインを爽快に駆け抜けろ!-第33回東北大学大会 - Orienteering News in Japan

 

翌年の大会に向けて

さて、4月の新歓が終わると翌年の大会に向けて動き出します。僕らが運営の中心となる年です。この時点でマッパーとかやる気はさらさら無かったのですが、成り行きでマッパーになりました。誰かが推薦したか、学科の3年時のカリキュラムが暇そうだからとかそんな感じだったと記憶。結構適当なもんです。テレインは岩切に決定。

この年の秋に地図調査の練習として、同期で地図調査を行いました。テレインは青葉の森。東北大の裏山です。この地図調査は既存の地図のリメイクでしたが、当時の青葉の森は結構歪んでいることが知られていました。さらに、前年経験したテレインが荒浜だったため、僕らは山テレインの調査は初めて。何がなんやらって感じで迷走しました。結局散々な地図ができちゃいましたね。いや、それでも初めての地図ってのは感慨深かったですけどね。

画像の右側が私の担当範囲です。境界が全然合わないので、おりゃーでつなげた記憶。懐かしいなぁー。ちなみに、この地図を使って田村杯ってのをしたので、”TC”のロゴが入ってます。PCの奥から地図データを探してきましたが、環境の問題でフォントが一部おかしくなってますね。

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GPSへの興味

さて、いつ頃からだったからか忘れたのですが、多分この頃からGPSというものに興味を持ち始めました。上の代や自分たちの調査練習通して、GPSというものにあったら楽に高精度な地図できんじゃね?って感じで(実際はそんなに甘くはないのですがね…)。林業GPSの本とか、ネットの情報とかいろいろ探してましたね。

東北大大会の余剰金の積み立てがだいぶ出てきたので、GPS買っちゃおうか、なんて話も出てきた頃にO-NEWSの記事で、京都OLCからお手頃価格でレンタルできる、という記事がいいタイミングで出ました。

おりらぼ-第17回:GPSを利用しよう! - Orienteering News in Japan

ってなわけで、とりあえずこれをレンタルして、良かったら似たようなものを買おうって話に。

余談ですがこの時の京都OLC担当者が現NishiProの西村さん。GPS目当てで京都OLCに入ったという噂。

2011年

宅急便でGPS本体が届いたときは、銃でも入ってんのかというようなアタッシュケースに入って届いて少しびっくり。

結構でかくて本体はリュックに入れて、そこからUFOみたいなアンテナが出てるタイプです。もって歩くと不審者です。100万円だか200万円だかのまさにプロ用のGPSちなみにこのGPSは、海上保安庁が船舶向けに出している中波ビーコンで送られてくる補正情報を受信するGPS受信機です。今ではこのタイプは少ないのではないかと思います。このGPS精度は高かったのですが、問題は感度。オープンでは安定して位置を取得できても、森のなかに入った瞬間不安定になります。受信できていれば精度はいいのですが、感度が低く、特に沢底ではいつまで経っても受信できないこともしばしばです。

それはともかく、そんな訳で、GPSを使い始めた訳ですが、なにせ東北大はGPSを使った調査の経験無し。っていうか自分の地図調査の経験自体貧弱。どういう風に運用していいのか分からず迷走しました。

GPSがレンタルで借りれる期間が限られることもあり、初めに一気に特徴物をGPSで取ろうという作戦でした。なのでGPSで点や線を取る→現地調査を行う、という順序を考えていましたが、これが結構時間がかかってなかなか現地調査に入れない。そもそもこのテレイン(岩切)は東北大所有の地図の中でもトップクラスの面積を持つテレインなのです。

GPSで何を取るべきか、というのがはっきりしてなかったのも問題だったと思います。(このときは尾根線や沢線もGPSで取ろうとしていたのですが、今思えば原図に乗ってるような尾根沢線まで取る必要は無かったのではとおもいます)。

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f:id:orienadvent:20161218172323g:plain↑2011年冬のGPS調査の記録。原図と比べて、GPSの精度は高そうです。かなりの密度で点を取っていましたが、道、主尾根沢など、多くが原図から十分読み取れる特徴物でした。むしろ原図の精度が高く、情報量がリッチなんですよね、このテレイン。

 

そんな感じで迷走しているうちに東日本大震災が発生しました。テレイン内でも主要道が崩落するなのどの被害。テレインは変更せざるを得ませんでした。
でも、もしこの震災が無かったら…?
正直、ちょっと恐ろしいです…
あのまま行ってたら地図調査の進捗は結構やばかったと思います。
僕はきっと地図調査の進捗を遅らせた戦犯のマッドサイエンティスト扱いされていたでしょう。
(でも、まぁ新しいことに挑戦するときにリスクと失敗はつきものですよね、うん。しゃーないしゃーない。)
同期の皆さん、迷惑ばっかりかけてほんどごめんなさいでした。

ちなみにこの年のテレインはみちのく湖畔公園で公認S。
地図はリメイクでした。GPSは使ってません。公園なら調査楽だろと思ったけど、そうでもなかったです。
大会一週間前にラスポ周辺にフェニックスが出現するしね。

 虹かかる秋空の下、湖畔公園は大盛況-第34回東北大学大会(2011) - Orienteering News in Japan

東北大もGPS購入

時系列は少し戻りまして確か夏前くらい。

結局部費で買ったのか大会会計で買ったのか忘れたのですが、なんやかんやで東北大もGPSを買いました。機種はMobileMapper6。今はもう売ってません。値段はあまりネット上で情報がないのでここでシェアしておきますが、確か30万円弱でした(後継機種も似たような価格帯だと思います)。

このGPSの特徴は、

・コンパクト
・高感度
・リアルタイムの精度はそんなでもない(一般向けのものよりは少しマシ程度?)
・線や点に属性を付けて記録できる(道、水系、穴など)←プロ向けのGPS全般の特徴ですが
・後処理によって精度が大幅に向上

というところです。この後処理について説明します。
後処理は国土地理院が公開している電子基準点の計測データを用いることで、
PC上で計測点の誤差を補正する技術です。受信状態にもよりますが、結構精度が上がります。ただし、リアルタイムでは使えませんので、同じ場所に2度調査に行かなきゃいけなくなります。しかも、後処理でどんだけ精度が良くなるかは実際にやってみないと分からないという…

このGPSを使って最初に作った地図が、七北田公園。
同期の有志数名で作りました。この地図は個人的にお気に入りです。
”なかけんメソッド”(この年発明)を初めて実用した地図でもあります。
まぁ原図にかなりの情報が乗ってる公園テレインだったので、あんまりGPS使う意味なかったかもしれないけど。
ここ、東北大大会では未使用です。仙台OLC大会を一度やったことが有ったくらいかな?
地下鉄駅も近い、いいテレインなので、前日大会とかで使われないかなぁ…(渉外的にどうなんだろう)

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七北田公園のGPSサンプル。GPSで特徴物を取るときに属性を付けられるので、OCADに取り込んだ際に、それぞれを適当な記号に対応付けることができます。


あと、この年は基盤地図情報から地図が作れるようになりました。以前から(いつからかは忘れた)航空レーザー測量と言うものがあることは知っていて、その一部が基盤地図情報とて公開されている事も知っていたのですが、そこから地図を作る、というのは時々思い出して挑戦しては失敗で飽きて諦める、ということの繰り返しでした。初めてコンタが生成できたときは感動でしたねー。


インカレロングが新テレイン(長野のアルプス公園のとこ)で、地図読み対策などがしずらかったので重宝しましたね。
航空レーザー測量のデータじゃなかったけど、ロングの対策としては十分。


2012年

この年はさくらんぼ大会(鴫の谷地沼)と東北大前日大会(台原森林公園)の地図を作りました。両方共、航空レーザー測量+MobileMapper6で調査しました。GPSは本大会の方から間借りですけど。特に台原森林公園の方は都市計画図のコンタがかなりいい加減だったので、航空レーザー測量のデータが有難かった…

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↑都市計画図と航空レーザー測量のデータの比較。都市計画図のコンタはかなりいい加減。当時台原は結構ゆがんでると言われていましたが、原図の影響が大きいのではと思います。結局、この当時の精度の良し悪しは原図の良し悪しに帰結するのかもしれない。

この年、大奮発してOCAD11とGARMINのeTrex20を買いました。学生には高い買い物です。(それでもこの時期は円高最盛期だったので割安でしたが)

GARMINGPSはOCADのデータ(を画像化したもの)を下絵に出来ます。OCAD10以降はOCADから直接出力できるようになりました。OCAD9以前でも原理的には出来るはずですが、面倒くさいです。やったことはありません。カシミール3Dで変換できるっぽいです。

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GARMINGPSの画面


あ、ちなみにGARMINGPSは英語版がおすすめです。日本語版高いです。「みちびき」に対応というセールスポイントはありますが、たぶん精度的にはあまり変わらないのではないかと思います。(少なくとも精度が良くはならない。精度が悪くなる確率が少し減る程度?)
GARMINでも、線や点を記録することはできますが、面倒くさいので基本記録しません(線や点に属性をつけることが出来ないので)。GARMINの背景に調査板と同じ画像をセットしておいて、調査板と見比べながら現在位置の参考にします。
まぁ当然精度はそんなに良くありませんが、無いよりは全然マシです。
正確に点や線を取るというよりも、適当に歩いていても、自分が居るおおよその位置が分かるってのが便利。コストパフォマンスはかなりいいと思います。

原図が航空レーザー測量だと、GARMINでも十分に自分の位置を確定させることが出来ます。例えば、いま尾根線上に居るときに尾根線上の大体どの辺にいるかをGPSで見る、というのがよく使うやり方。

 あ、ちなみにこういうふうに、原図をGPSの背景にして、って言うやり方はGARMINだけじゃなくて、MobileMapperなどでも出来ます。そっちはGeoTiffを使うのでOCAD Viewerで出力できたり。

 

内容盛りだくさんの争奪戦初日-第13回さくらんぼ大会1日目(2012) - Orienteering News in Japan

さくらんぼ大会は時期的に、大会直前に植生が急激に悪化するので大変でしたね。短時間でぱぱっと調査しようというスタンスを知れたのはさくらんぼ大会。

トレイルとミドルで公園の表裏を楽しむ-東北大大会前日イベント(2012) - Orienteering News in Japan

台原は結構NoMappedエリアが出来てしまったんですよねー心残り。台原はこれまで1:5000、等高線間隔5mだったのを等高線間隔2.5mに変えました。このテレインは公園テレインみたいな顔した山テレインで、想像以上に谷が深い、っていうのを反映させたくて。大会は気楽に開くつもりが、公認トレイルと共催になり、院試期間とも被ってて大変でしたね。あ、そういえば某実行委員長は院試落ちてましたね。

2013,2014年

院生になってからはさくらんぼの調査だけですね。

MEは藤沼が連覇、WEは関谷が初参加で制す!-第14回さくらんぼ争奪オリエンテ ーリング2日間大会(ナイト、ロング) - Orienteering News in Japan

2013年さくらんぼは「横倉の壁」。標高が高いので、調査中寒かった記憶。2012,2013のさくらんぼ調査は蔵王温泉だったので、温泉三昧でいい思いしました。

2014年は西蔵王の修正&拡大。就活も終わってない中の調査で大変でしたねー。うんうん。(この年の4月でO-NEWSが終了しているので記事がない…)

 

2015年

社会人になって和歌山に来ました。(このとき、引っ越しのどさくさでサムコン、プレコン、eカード、eTrex20などを紛失…損害額いくらだろう…)

この年は何も調査していないのですが、新しいことを試してみました。

OCADに直接GPSを繋いで、タブレットで地図調査をすることです。結論としては、あまり使えないなぁ、という感じなのですが、工夫次第では実用的になるかもしれないので、シェアしておきます。

OCADはGPSのデータをリアルタイムで取り込むことができます。といってもどんなGPSでも、というわけではありません。NMEA0183というフォーマットで、シリアル通信でデータを送ってくれるGPS受信機が必要です。手元にあるGARMINGPSはそれはできないっぽいです。もしかしたらできる機種もあるかもしれないけど。

 とりあえず実験のために↓を買いました。USBで接続できるタイプのGPSです。

https://www.amazon.co.jp/GlobalSat-BU-353-S4-WaterProof-Receiver-SiRF/dp/B00I1F7DOM

PCはSurfacePro3。12インチは調査向きじゃないですね。

最初に試したときのレポートをFaceBookに書いています↓

タブレット×GPS×OCAD

2016年になって和歌山で調査する機会があったので一回試してみました。

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タブレットPCを裸で持ち歩くのはどうなんだろ…と思いつつ。左はGARMINのGPSMAP64。こっちの方が精度は良かった記憶。

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↑道を取っているところ 

当然、道を歩いても結構ズレてます。なので、道を歩いてそれをそのまま記号で置き換える、ってのは難しい。結局位置が合ってても角度や形がおかしくなってたらだめなんですよね。しかし、コンパスを使おうにも、タブレットPCの上にコンパス置いたら当然使えないわけで…そうなると調査板の方が使い勝手がいいですね。

というわけで、Surfaceを持っていったのは1回きり。USBのGPSも家で眠ったままです。

 

今後この方式が活用できる可能性はあるか?工夫や使い方次第かなと思います。

まず、山テレインで道や主要な地形を調査する段階では不向きです。そもそも山にPCの持っていきたくないし、コンパスが重要なので、相性が悪い。
なので、骨格が原図でほぼ確定してる公園テレインでの調査か、山の場合も最後の仕上げなどが使いどころかと思います。

また、調査に持っていくなら12インチではなく、10か8インチ位がいいと思います。ただし、スタイラスペンは必須です。あと、これはOCAD側に要望したいことですが、タッチ操作に対応して欲しい。ピンチイン、アウトなど。それができるだけでだいぶ操作性が良くなると思います。

 

 うめくさ

東北大の部誌、だっちゃでけさい、では余白に埋草を書く習慣がありましてね。私はそれ結構好きだったんですよね。ブログで埋め草って意味ないけど、なんとなく書きたくなってしまって…

うめくさ

他に書く候補として新ISOMについて、とか、GPSの使い方講座、みたいなのも候補でした。まぁ結果的に書きたいことを書くことにしました。PCの奥に眠る懐かしの地図データと出会えて良かったです。また、図らずもO-Newsの存在意義というか偉大さを再認識する記事にもなりました。GPSのこと聞きたい人はTwitterとかで聞いてもらえれば、知ってる範囲で答えます。

うめく3

大事なのは何よりも好奇心