オリエンティア Advent Calendar

オリエンテーリングを語ろう。

卒業後のインカレ(第1部:もう一つのインカレ、第2部:インカレ運営の記録、最後におまけ)

Advent Calendar17日目 第1部

「もう一つのインカレ」

文責 Y城

 

<序章>

インカレ…それは全国の大学生オリエンティア達の憧れの舞台であり、オリエンテーリング界最大級の祭典である。たゆまぬ努力と勝負強さが試され、選手権者を決めるために様々なドラマが巻き起こる。後世に語り継がれるような名勝負が生まれるのも、インカレの舞台ならではである。

 

そんな大学生が主役となり熱狂する舞台の端で、もう一つのインカレが行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オフィシャルレース。

 

それは、過去インカレに情熱を燃やし、卒業してもなおインカレに心を奪われ続けたOB(オリエンバカ)達が妙なテンションで出走する晴れ舞台である。ある者は本気で頂点を狙い、ある者は本気でウケを狙い、インカレの学生たちのアツい走りに中てられたオフィシャルたちの情熱と邪念が交錯する。

 

筆者は過去2回、東京大学のオフィシャルとして出走し、過去1回、オフィシャルレースのプランナーを務めた。オフィシャルレースにはマジで無駄で過剰な情熱を傾けたと自負しているため、誠に勝手ながらAdvent Calendarというオフィシャルな(?)場でクソしょうもない話をさせていただくこととする。

 

<0.オフィシャルレースとは>

 まず、近年オフィシャルレースがインカレに導入された経緯について記載しよう。

 そもそもオフィシャルレースとは、JWOCやWUOC(ユニバーシアード)などの海外大会で用意される悪ノリイベントである。各国のチームに帯同しているコーチ陣(オフィシャル)は、テクニカルミーティングや選手のケアに追われて、オリエンテーリングの競技自体に参加できないことが多い。そんな哀れなオフィシャルたちに運営者が救いの手を差し伸べ、最終日のリレーの日に「地図やるから走って来いよ」という放置プレイスタンスで、しかも全員マススタートという熾烈を極める条件の中でオフィシャルレースは実施される。専用のコースが用意されていることは滅多になく、運営側で余っている地図を雑に渡され、ビジュアルでは選手から酒をぶっかけられるなど、相当手荒な仕打ちを受ける。踏んだり蹴ったりである。

 しかしそんな理不尽イベントにも関わらず、各国オフィシャルは喜々として参加し、あまつさえビジュアルで酒を飲んでレースを続ける者もいる。代表として参加したWUOC2012(Spain)で初めてその光景を目の当たりにした筆者は一気にその魅力に取りつかれ、当時の日本チームのオフィシャルであるY田勉氏(みちの会所属、現在の日本代表HC)に罵声を浴びせていた。

 

 

 話を戻そう。

 オフィシャルレースとはそんなお祭り的なイベントであるが、筆者の先輩であるK林遼氏(東京大学07入学)も、その魅力に取りつかれた者の1人であった。彼はインカレミドルリレー2013(矢板で開催)のリレーのコースプランナーであったが、いろいろ間違って、インカレという真面目に選手権者を決める場でクレイジーなイベントの開催を思いついてしまった。これが、昨今のインカレで悲劇&喜劇を生むオフィシャルレースのオリジンである。(ただ、過去2011年滋賀インカレなどで検討されていたという噂はある)

 

幸いにも筆者はそのオリジンとなる2013年矢板インカレ、およびその意志を引き継いだ2014年愛知インカレにオフィシャルとして参加することができ、そのクレイジーイベントを全力で体感することができた。また、2015年に再度矢板の地で行われたインカレでは、運営者として関わることができたので、プランナーでも競技責任者でもないのにオフィシャルレースのプランナーを志願した。やりたい放題である。

 

これからもオフィシャルレースが存続していくことを願ってやまない1オリエンティアとして、筆者のかかわった過去3回のオフィシャルレースについて、詳述させていただこうと思う。

 

<1.2013年矢板インカレ:「矢板日新」>

 近年のオフィシャルレースのオリジンとなる記念すべき第1回目である。

 当時、東京大学のオフィシャルを務めていた筆者は、インカレの要項3に記載されたオフィシャルレースの文字を見て、打ち震えた。

 オフィシャルレースへの参加は、リレーのオーダー提出同様、インカレリレーの前日に紙媒体で参加意思を表明する必要がある。当時、同じく東京大学のオフィシャルを務めていたM谷氏(東京大学2009年入学)に、オフィシャルレースへの参加意思を尋ねたところ、ものすごく嫌な顔をして「どっちでもいい」と言われたと記憶している。このように、一言にオフィシャルレースといっても、マススタートという肉体的負荷の高さから敬遠されることも多い。

 オフィシャルレース当日、リレーのオフィシャル業務もあったため、一人早起きして朝5時台から朝ジョグを敢行し、体の調子を整えた。調子は上々であり、来たる理不尽イベントに耐えうる体調であることが確認できた。本命イベントであるインカレリレーの選手権クラスでは、各走順で順位が入れ替わるアツい展開を見せていた。極めつけに、母校の東京大学や同クラブのお茶の水女子大学の優勝シーンを目の当たりにして、1OBに過ぎない筆者は勝手ながら涙腺を崩壊させていた。ちなみに、このインカレでは、フィニッシュ後のインタビューで高確率で涙腺の崩壊が観察された。

 現役学生たちの走り、そして応援の熱量に中てられてオリエンテーリング欲が頂点に達していた筆者は、リレーがひと段落するやいなや、オフィシャルレースに備えてアップを始め、現役学生からドン引かれた。(すでにオフィシャルレース用に上着の下にはトリムを仕込んでいたことが原因と思われる)

 

 そして記念すべきスタートの配置につく。

 スタートに並ぶのは、往年のインカレを沸かせた名選手たちである。

 関西からは盟友・T田氏(京都大学2009年入学)、東海からの刺客・M井氏(名古屋大学2007年入学)、そして関東からは主に東大OLK所属の目の上のタンコブたちが出場した。ちなみに、お茶の水女子大学のオフィシャルを務めたY上D智氏(東京大学2007年入学)は、ピンクと黄緑のド派手なトリムでの出走を学生たちから要求されたが、断固として拒否した。

 スタート配置についた大人げないオフィシャルたちは、学生たちの走りに中てられた情熱と大勢の前で曝されてくすぶる芸人魂とマススタートという過酷条件を目の前にした絶望感が混ざり合って、「ンヒィー」とか「ヤベェ」という断片的な言葉しか発せなくなっていた。そんな状況に追い打ちをかけるように、解放感にあふれた学生たちから応援激励野次罵詈雑言が押し寄せ、さらにオフィシャルのテンションをオカシクさせていた。

 そうこうしている中で一瞬の静寂、そしてその時は訪れた。

 

 オフィシャルレース、スタート。

 

こちらに地図を掲載しておく。A4地図なのに、使われているのは会場周りのほんのわずかなエリアのみであった。

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海外では余った地図が手渡され勝手に走れという放置プレイスタンスなのに対し、K林氏はオフィシャルレース専用のコースを組み、あろうことかオフィシャルを全力で晒し者にするビジュアル設定を盛り込む(地図の8→9)という暴挙に出た。ありがとうK林氏。

 

スタート直後、目立つにはここしかないと邪念を旺盛に燃やした大阪大学オフィシャル・T中氏(東京大学2006年入学)があり得ない速度で飛び出し、そこに新潟大学オフィシャル・T川氏(新潟大学2008年入学)が続く。マジ勘弁してくれと思いながら筆者も続いた。そうこうしているうちに、スタートフラッグ直後の上り坂に差し掛かったが、ここでT中氏がバテたため、早々に筆者が先頭に立った。リレー競技の日の1クラスということものあり、この時点ではパターン振りを疑っていたが、どうやら後ろからやってくる人は全員自分の方向に向かってくる。どうやら雲行きが怪しいと思いながら第1コントロールを取り、次のコントロールに向かったが、どうも全員同じ方向にやってくる。これはいよいよ怪しい。

 賢明な読者一同ならもうお気づきかと思うが、運営者はパターン振りまでやってくれるほどオフィシャルレースに気を配ってくれていない。マススタートの上に同一コースという暴挙が行われていたのである。観戦者諸君は気づかなかったかもしれないが、山の中では目まぐるしい熾烈な先頭争いが繰り広げられると同時に、大人げないオフィシャルたちの阿鼻叫喚が木霊していた。そんなことを観戦者は知る由もなく、曝し者の舞台・ビジュアルに表れたオフィシャルたちに「走れー」とか「歩くなー」という言葉をかけてくる。無茶ぶりである。

 

こちらに、ビジュアルに表れた哀れなオフィシャル諸氏の勇姿が記録された動画を紹介しておこう。

Advent Calendarの7日目に登場した、早大OC出身のO崎氏によるインカレ動画である。

11:04より、オフィシャルレースのパートとなるので、ぜひオフィシャル諸氏の芸人魂を心に刻んで頂きたい。

www.youtube.com

 

余談だが、Y城はビジュアル直前までY上氏の後塵を喫していたが、寄せる年並みに勝てぬY上氏を最後の尾根走りで抜き去り、2013年度のオフィシャルレースを制して芸人of芸人の称号を得た。

 

<2.2014年愛知インカレ:「作手高原」>

 K林遼氏の意思を継ぎ、翌年2014年度の愛知で行われたインカレリレーでも、オフィシャルレースが執り行われることとなった。なぜ続けた。

 しかしながら当時、東京大学のオフィシャルを務めていた筆者は、インカレの要項3に記載されたオフィシャルレースの文字を見て、身震いした。

 オフィシャルレースへの参加は、リレーのオーダー提出同様、インカレリレーの前日に紙媒体で参加意思を表明する必要がある。当時、同じく東京大学のオフィシャルを務めていたM谷氏(東京大学2009年入学)に、オフィシャルレースへの参加意思を尋ねたところ、ものすごく嫌な顔をして「どっちでもいい」と言われたため、勝手に名前を書いて提出した。

 オフィシャルレース前日、オフィシャルレースに備えてジョグを敢行し、愛知の見知らぬ街中を疾走した筆者は、上々の体調でオフィシャルレース当日、じゃなかったインカレリレー当日を迎えた。本命イベントであるインカレリレーの選手権クラスでは、各走順で順位が入れ替わるシビれる展開を見せていた。極めつけに、2走時点で接戦であったのにもかかわらず、3走で大きくリードを広げた母校の東京大学の優勝シーンを目の当たりにして、昨年度に引き続き筆者は勝手ながら涙腺を崩壊させていた。

 現役学生たちの走りで背中を押され、オリエンテーリング欲が上がっていた筆者は、リレーがひと段落するやいなや、オフィシャルレースに備えてアップを始め、昨年度に引き続き現役学生からドン引かれた。

 しかしそれ以上にドン引きだったのは、女子大のオフィシャルを務めていた男性陣の一部が、あろうことかその女子大のトリムを着て出走レーンに現れたことである。白を基調として淡い桃色のラインをあしらった、いかにも女性用のトリムに身をつつんだH氏(東京大学2009年入学)の姿を見て、とんだ破廉恥野郎だという思いに駆られた。その後、2013年度のオフィシャルレースでY上氏が着用拒否した黄緑とピンクを基調としたトリムに身を包んだお茶の水女子大学オフィシャル・I野氏が現れた。彼は抑えきれないニヤニヤを顔に浮かべ、ひっきりなしに写真を撮る大学生に向かってシャッターチャンスを提供していた。何より腹が立つのは、そんな犯罪チックな行為をすると女子大生から黄色い声援を一身に受けることができるという彼らの立場である。筆者に飛んでくるのは「優勝いけるぞ~」とかいう野郎どもの野太い声援ばかりである。俺もきゃーきゃー言われたかった。

 

 失礼、つい話が脱線した。

 

 そして再び、スタートの配置につく。

 スタートに並ぶのは、往年のインカレを沸かせた名選手たちである。

 連覇のために何としても負けられない筆者は、昨年度のインカレリレー男子選手権クラスで好走を見せた名大・H川氏をマークしていた。

 スタート配置についた大人げないオフィシャルたちは、アツい戦いに中てられた情熱と前日の雨でハンパなくぬかるんだ足場への不満と学生たちの怒号への恐怖心が混ざり合って、「マジ無理」とか「走りたくねぇ」というネガティブな言葉しか発せなくなっていた。周囲からは相変わらず解放感にあふれた学生たちから応援激励野次罵詈雑言が押し寄せ、さらにオフィシャルのテンションをオカシクさせていた。

 スタートしてからの様子については、ほぼ割愛させていただく。 

というのも、観客から見えるエリアはスタート誘導区間のみであったからだ。こちらに地図を掲載しておく。普通に本格的なマススタートオリエンテーリングを要求され、会場周りを走り回るだけだと想定していた哀れなオフィシャルの面々は相当に面食らって「マジかよ」とか「ンヒィー」という言葉にならない言葉を発し続けていた。

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この年のオフィシャルレースは、オフィシャルが学生たちの目の前にほとんど曝されず、オフィシャルレース愛好家の筆者は大いに憤慨した。この時の憤りが、翌年度の2015年度インカレリレーの運営において、筆者がオフィシャルレースのプランナーを務めることに繋がっていく。

 

余談だが、H川氏と一進一退の攻防を繰り広げていた筆者は、大人げなく会場前でH川氏を抜き去り、無事オフィシャルレース2連覇を果たした。

 

<3.2015年度矢板インカレ:「Shooting Star Shioya~ホシフルオカニテキミヲマツ~」>

 過去2回は芸人側として参加したが、今回は運営者として、芸人たちに対して舞台を提供する側に回った。筆者は一介の演出パートチーフに過ぎなかったが、オフィシャルレースへの異常なこだわりに引いた競技責任者のS本氏に、オフィシャルレースのプランナーを命じられた。

 コースについては、インカレリレーのコース確定後にテキトウにコントロールを繋いで作るというスタンスだったため、まずはテレイン名およびテレインのロゴのデザインから着手した。

 当初は、旧テレイン名である「☆彡しおや」のようなキラキラネームで行きたいという要望も強かった。様々なテレイン名があるが、キラキラ感をだすためにはやはり英語名、カタカナ発音の名前だという意見の一致が見られたため、☆彡の部分を流れ星ととらえて「Shooting Star」、しおやの部分は表記を合わせる意味で「Shioya」とし、第1候補の「Shooting Star Shioya」が出来上がった。

 この時点で、筆者が10分で作ったロゴが下の図である。

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 ここで、リレープランナーであるY川氏(筑波大学2009年入学)が天性のセンスを発揮し、「星降る丘にて君を待つ」というテレイン名を提示してきた。内心わけわかんねぇと思いながら、リレープランナーの意見だけに無下にできず、なんとかしてテレイン名に組み込めないか思案した結果、副題とすることに決定した。なおかつキラキラ感を捨てたくなかったので、すべてカタカナ表記としてフリーフォントプラネタリウム」で更なるキラキラ感を付加することで、全体の統一性を保った。

 ここでさらにY川氏が天性のセンスを発揮し、「★の色を、「純」の色にしてはどうか」という提案をしてきた。背景を説明すると、実行委員会には、東京工業大学からの刺客が大量に送り込まれていたため、また実行委員長のI田純也氏の名前に「純」という文字が含まれていたため、殺しパフォーマンスの高い酒、東京工業大学の星の戦士たちのオフィシャルドリンクとして悪名高い宝焼酎「純」が試走の際に大量消費されていた。「純」は「守りの青」「標純溶液の緑」「攻めの赤」の3種から構成されているため、この3色をロゴデザインに組み込んだ。

 こうして出来上がったのが下のロゴである。

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こんなところに無駄な工数を突っ込めるなんてなんと暇人だろうか。

 

そうこうしているうちに、リレーのコントロール位置が固まってきたので、会場周辺にあるコントロールをざっと繋いで、オフィシャルレースに相応しいコースのセッティングに着手した。

ここで大切にしていたコースコンセプトは下記3点である。

①オフィシャルが十分に現役学生の目にさらされること

②オフィシャルにビジュアル前に十分に苦痛を与えること

③オフィシャルがペナること

 

①は、リレーの会場レイアウトを利用することで解決した。

2015年度のリレーでは幸い、ビジュアルコントロールからの導線が選手権と一般併設で分岐していた。オフィシャルにはやはり選手権、一般併設どちらの気分も味わってもらいたいという強い気持ちから、ビジュアルコントロールを2回とるという発想が生まれた。

また、幸いなことに、会場からかなり近い位置に、オンラインコントロールが設置されていた。観客たちに逐一オフィシャルたちの動向が伝わるよう、早い段階でオンラインコントロールを取るようにコースセットした。当日は電波状況が悪く実況するに至らなかったのが心残りである。

②は、リレーの会場が高台にあることが幸いした。

ビジュアル前のコントロールはかなり急な坂の途中にあり、それより標高の低い場所には大量のコントロールが設置されていた。それらのコントロールからビジュアル前のコントロールに回せば必然的に急な坂を上るルートを取らざるを得ないので、これ幸いとそのようなレッグを採用した。

③は、コースのパターン振りをいかに気づかれずにやるか、に注力することで解決した。コースパターンを位置説明に記載されるようでは(1、2やA、Bといったナンバリング)、コース名からパターン振りを察知されるので、気づかれないように「THANKS」と「thanks」という大文字・小文字に変更した。

そして、コースのパターン振りもかなり豊富に盛り込み、常々「リレーはペナってはいけない」と連呼しているオフィシャル陣をペナらせる工夫を行った。

 

こうして出来上がったコースが下の図である。

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ちなみに、考えていたコースプロフィールは「選手たちからの応援を一身に受けられるよう、豊富なビジュアル区間を設定し、会場から離れても片時もサボれぬよう、オンラインコントロールをコース中に盛り込みました。インカレで選手たちが受けた声援を一身に浴びて、会場を沸かせてください。」というものだった。

 

こうして、手塩にかけたオフィシャルレースのコースが完成した。

 

舞台は整ったので、ここからは当日にオフィシャルたちの身に起こった出来事を記載する。

①オフィシャル陣、地図置き場を破壊する

 血眼になって地図を目指すオフィシャル陣が地図置き場を破壊していく動画がある。

 https://www.facebook.com/mteraoka2/videos/960001684083643/

  これが人の業である。実に醜い。

 ちなみに、武蔵野大学オフィシャルであったN友氏(東京大学2011年入学)は、地図の取り違えにより失格となった。

 

②オフィシャル陣、急坂に根を上げる

 ビジュアルコントロール後、オフィシャル陣は会場のビジュアルを通過するレイアウトとなっているが、実行委員会演出パートはその際にインタビューを試みた。

 「ぬああ」や「きつい」など、急坂のきつさに根を上げるオフィシャルが続出し、ある者は学生から水をぶっかけられていた。

 

③H田氏、M田氏、仲良くペナる

 オフィシャルの発する言葉にならない叫びと学生の悪ノリで会場が妙な熱気を帯びる中、コース終盤で一橋大学オフィシャルのH田氏、椙山女学園大学オフィシャルのM田氏が熾烈なデッドヒートを繰り広げていた。お互いの動向に注意し続けていた結果、彼らはあろうことかビジュアルコントロールを取り忘れ、失格となった。結果的には、そのデッドヒートはH田氏の勝利に終わり、完全に達成感に満たされているH田氏はゴール直後のインタビューで「この背中を見て育ってください」という自信満々な言葉を発した。その後、計センで記録を読み取った瞬間にペナ音が鳴り響き、ほぼ同時にフィニッシュしたH田氏、M田氏は地面に崩れ落ちた。

 あの自信満々な発言は何だったのか。実に、反面教師である。

 

<4.まとめ>

ということで、長々とオフィシャルレースについて語らせていただいたが、オフィシャルレースがいかに過酷で魅力的なレースであるかご理解いただけただろうか。

オフィシャルレースの1ファンとして、今後も健やかなオフィシャルレースが継続されていくことを願ってやまない。

 

以上、駄文長文失礼しました。

 

Y城

 

以下、真面目な第2部が始まります。

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Advent Calendar17日目 第2部

「インカレ運営の記録(+おまけ)」

文責 結城 克哉

 

【目次】

0.自己紹介

1.第1回インカレスプリント

 1-1.隔離所の決定

 1-2.コースセッティング

 1-3.スタート前に、地図を使用したウォーミングアップエリアを作る

 1-4.余談

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2.第2回インカレスプリント

3.おまけ

 

0.自己紹介

 ここからはまじめなパートなので、簡単に私の自己紹介をさせてください。

 東京大学2009年入学、オリエンテーリングクラブトータス所属の結城克哉と申します。

 主な個人戦績はインカレロング2011、2012優勝、インカレミドル2012優勝、2012年度、2013年度全日本選手権(ロング)優勝、オフィシャルレース2013、2014 2連覇です。

 海外の大会経験は、WUOC2012(Spain)、WOC2013(Finland)、WOC2014(Italy)です。

 主な運営経験はインカレスプリント2015競技責任者 兼 プランナー、インカレミドルリレー2015演出パートチーフ、インカレスプリント2016イベントアドバイザーの3つです。

 オリエンテーリング界のいろいろを経験してきましたが、他の人がなかなか経験することのない、インカレの新種目立ち上げに携わったものとして、インカレスプリントの競技的な側面についてお話をさせていただこうと思います。

 

1.第1回インカレスプリント

 まずは、長野県諏訪郡富士見町の富士見高原リゾートで行われた第1回インカレスプリントの競技責任者 兼 プランナーの立場から、コースが決定した経緯について書こうと思います。これから、インカレスプリントの運営者は、大会運営の進め方として参考にしていただけると幸いです。

 順序としては、<①選手隔離場所の決定>→<②コースセット>→<③コース上の安全確保・注意点設定>という形になっています。

 地図があったほうがわかりやすいと思うので、最初に、インカレスプリントで使用された地図を掲載しておきます。

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             図1.男子選手権コース図

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             図2.女子選手権コース図

このコースをどのようにして決めていったか、順を追って記載していきたいと思います。 

 

1-1.選手隔離場所の決定

 コースを決定するうえで、スタート位置は重要なファクターです。その位置を決めるためには、まず選手の隔離場所を決める必要がありました。富士見高原リゾートは急勾配で片斜なテレインであったため、標高の高い位置にスタート位置を持っていきたいという希望がありました。

 そこで、富士見高原リゾート内部で一番標高の高い場所、「創造の森」を第一候補として下見しました。

(地図で言うと、ちょうどコントロール位置説明図あたりの場所にあります)

 

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図3.創造の森に向かうリフト。選手権だけ乗れるという特別仕様を考えました。

 

この創造の森エリアをスタートとする場合、壮絶なダウンヒルスプリントになることが予想されました。

富士見高原リゾート周辺の山林は「AMIGASA」という地図でO-MAP化されていたため、その旧図をもとに試しにコースセットを行ったところ、なんだかルートチョイスもないし、膝が壊れそうなダウンヒルだし、と問題点が山積みでした。

スタート付近が、創造の森と呼ばれているエリアです。

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    図4.2/3時点のMEのコース    図5.2/3時点のWEのコース

  創造の森エリアの下見後、しばらくは西村氏による調査が進められ、完成してきた地図の中には想像の森が含まれていませんでした。そのため、創造の森を選手の隔離エリアとすることを諦め、富士見高原リゾート内の建物の一つを利用して選手隔離場所とする、という方向で考えました。検討した結果、駐車場脇にある「ジュネス八ヶ岳別館」を選手隔離所として利用することを考えました。

 地図上では、男女選手権ともに会場のビジュアル区間通過後に通るエリアの道を挟んで右側に位置する(下図参照)ため、慎重に協議しました。

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図6.隔離所であるジュネス八ヶ岳別館付近

 

ジュネス八ヶ岳別館を隔離所として使用するにあたり、懸念点が2点ありました。

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①選手権出場者が会場に行くと、選手権のコース情報が漏洩する

②駐車場~隔離所間で、参加者の目につく場所にコントロールを設置できない

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 これらの問題は、運営側の工夫と参加者への協力を依頼する形で解決しました。①に関しては「選手権出場者の会場への移動を禁止、事前に隔離所に入ってもらうこと」、②に関しては、「選手隔離後~競技開始前の間で設置・コントロール位置の確認を行う」ことで解決しました。②は後述します。

 以上の経緯で、まずはスタート前のファクターである「選手権隔離場所の位置」が決定しました。

 

1-2.コースセット

 隔離場所が決まったことで、コースセットが本格的にできるようになりました。コースセットは、下記の順で進めていきました。

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①スタート位置の決定

②コースの確定

③スタート待機所でのウォームアップエリア設定

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1-2-1.スタート位置の決定

インカレスプリントのスタートを決めるにあたって、僕の中で印象に残っていた出来事が2つありました。その1つはWOC2013 Finlandのスプリント決勝(もう一つは1-2-3.の項で出てきます)。競技会場であるドームがスタート、かつゴールに設定されていました。また、交通量の多い道路も、多くの役員を配置することにより交通整理し、選手の通行に影響がないよう配慮された運営となっていました。

 この中で、会場スタートで選手が応援されながら走っていく姿がとても印象に残っていて、今回のインカレスプリントでもできないかと考えました。競技会場は陸上競技場にすることは前々から決まっていたので、競技会場に入らず、歓声だけが聞こえるような場所をスタート枠にすることで選手の緊張感を煽ろうと考え、競技会場脇の斜面下にスタート枠を設定しました。また、スタート枠から出てスタート誘導の間、観客に応援される形にしたいと思ったので、スタートフラッグは競技会場内に設置することにしました。

 ここまではよかったのですが、隔離所とスタート位置が決まったところで一つ問題点がありました。コースセットをしている中でどうしても外したくないレッグがあったのですが、そのコントロールがスタート誘導中に見えかねなかったのです。これについては、実行委員長の斎藤翔太氏とイベントアドバイザーの山上大智氏と共にコントロールが競技者の目線から確実に見えないことを確認する作業を行い、導線を確定させました。実際に採用されたのが、図の誘導案②です。(コントロールの位置は、図に赤丸に示したあたりにありました)

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              図7.2つのスタート誘導案

 どちらも、導線を通って見える景色を動画に記録しているので、興味がある方は見てみてください。

【動画1】:スタート誘導案①

 

youtu.be

 

【動画2】:スタート誘導案②

youtu.be

 

ここで決めたスタート誘導を、東北大学の同期で、第2回インカレスプリントの実行委員長を務めた田村直登氏に実際に作って運営してもらいました。 プランナーのわがままでとても苦労をかけてしまいましたが、滞りなく運営してくれて、とても助かりました。

 

1-2-2.コースの確定

 スタートが決まって、本格的にコースセッティングを開始しましたが、その際に大事にしていたことが「コースの面白さのための要素」は3点、「競技としての大前提」として2点、「演出」として1点ありました。

【コースの面白さのための要素】

①コントロール位置はシンプルにすること

②ルートチョイスがたくさんあるレッグを連続で配置すること

③普段疾走することのない場所を疾走すること(スプリントの特別感)

【競技としての大前提】

④競技者が安全に競技可能であること

⑤その他の利用者に迷惑をかけないこと

【演出】

⑥競技者が観客から見えやすいレイアウトにすること

 

これらの6つの要素をすべて満たすコースを組むのはなかなか難しく、アドバイザーの山上氏に何度も何度も組み直しを要求されました。

簡単に、それぞれの話題について簡単にお話ししたいと思います。

 

<①コントロール位置はシンプルにすること>

スプリントのコースセットの原則は、JOAのHPから閲覧できますが、簡単に言うと

「コントロール位置がシンプルで」

「ルートチョイスがいっぱいある」

「高速レース」

です。これらの原則を守ってコースセッティングしている限りは、面白いコースに仕上がります。(参考:

http://www.orienteering.or.jp/archive/rule/guidelinesappend_160207.pdf)

これを強く意識して組んだのは、男子選手権の5→6。

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   図8.男子選手権5→6(インカレスプリント2015報告書ルート解説より引用)

 

手前の〇が5、奥の〇が6です。建物の角と人工特徴物なので、地図を見ればコントロール位置は容易に読み取ることができますが、とにかくルートチョイスが難しい。通行不能柵が満遍なく存在していたので、それらを利用しない手はないと思いこのレッグを組みました。当然ですが、そのほかのレッグでも妥協はしていません。

また、6のコントロール位置にちょうど良い特徴物がなかったため、実際は台を置いて人工特徴物としました。

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       図9.人工特徴物とした台の写真

人工特徴物を置くのは運営的にも手間でしたが、いいコースのためにはやはり全力で準備したいという気持ちが強かったので、このような選択にしました。

今後インカレスプリントが存続していくにあたって、選択肢を増やす知見になれば幸いです。

 

<②ルートチョイスがたくさんあるレッグを連続で配置すること>

 本格的なスプリントにしたかったこと、またテレインが日本で提供できるスプリントの環境として最高峰によかったこともあり、とにかくその環境に見合ったコースを提供したいという思いが強くありました。そのため、テレインの魅力(難易度)を存分に引き出す、過去に体験したことのないようなスプリントのコースを提供しようと思ってコースセットを行っていきました。

 幸い、筆者はオリエンテーリングの本場であるヨーロッパでのスプリント参加経験があり、大会だけでなくトレーニングキャンプ期間で多くの市街地スプリントの経験があったため、それらの経験を思い出しながら組んでいきました。

(余談ですが、WUOC2012の「バルバラ城」からのダウンヒルスプリント、WOC2014トレキャン期間の「ヴェネチア」でのスプリントは最高でした。)

 余談が過ぎましたが、ルートチョイスがたくさんあるレッグを連続で配置するのに気を使ったエリアが図8。

 

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       図10.ルートチョイスがたくさんあるゾーン

細かいルートチョイスがたくさんあり、かなり迷います。

脱出時に簡単に脱出できる方がベストルートにならないよう、配慮して組みました。

 しかし、このエリアは細かい読図が多く、またレッグ線が複雑だったため、10番コントロール不通過による失格者が多く出てしまいました。数字・コントロール円を白抜きにするなど対策はとれただけに、運営としては反省点の残る結果となりましたが、こうした試行錯誤を経てどんどんいい大会になっていけばいいと思います。

 また、第2回インカレスプリントではコントロール円の白抜きや数字の白抜きを行い、判読性が格段に向上しました。白抜きの技術はYMOE社 山川氏によるものなので、詳細についての記載はここでは割愛します。

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  図11.白抜きの例

 

 加えてこのエリア、1-2-1.スタート隔離所の決定の項で問題となった、「②駐車場~隔離所間で、参加者の目につく場所にコントロールを設置できない」エリアだったので、その設置の話もここで触れておきます。

 当日の選手権隔離完了時間が10:15、女子選手権のトップスタートは10:50で、その間35分しかありませんでした。このエリア以外のコントロールはすでに設置済みだったため、隔離時間まではそれらのコントロールの起動確認をおこないました。

 その後、未設置のコントロールを競技責任者の結城が設置、その後山上氏によるコントロール起動が行われ、全コントロールの確認が終了しました。35分間の間に設置とコントロール起動確認を行うというかなりスピーディな作業が要求される場面でしたが、スムーズに終えることができ、無事競技開始に間に合わせることが出来ました。

 

 ちなみに、第2回インカレスプリントでは隔離時間からトップスタートまで30分しかなかった上に、設置・コントロール起動確認をするコントロール数も多く、確認完了が競技開始の5分前というかなりスリリングな展開を見せていました。

 

<③普段疾走することのない場所を疾走すること(スプリントの特別感)>

 ②の項でも書きましたが、海外スプリントに何度か出場した際、日本のスプリントにはない楽しさを感じました。その違いを分解してみると、トップに来るのがやはり「テレイン」でした。テレインが違うことにより、いったい何が違うのか考えてみると、それは「普段走れない場所を走る特別感、高揚感」だという結論に至りました。ヴェネチアの街中にコントロールが設置してあって、その中を自由に走り回れるなんて信じられます?

 この信念のもと、インカレスプリントでも「普段のスプリント大会(日本ではパークOのことが多い)で経験しないようなレッグを取り入れよう」と考えました。

 その最たる例が、図8の中にある男子選手権9→10、および下の図10の3→4です。

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     図12.男子選手権3→4(女子も共通) 下の〇が3、上の〇が4です。

 こんな、建物のデッキの周りを走り回るレッグなんて日本で今まで経験したこともないし、それが地図上に表現されていることなんて見たことありませんでした。富士見高原リゾートの地図はNishiPROの西村氏に作成いただきましたが、その地図を見て興奮したのを覚えています。見た瞬間から、この場所はどんな手を使ってもコースに入れたい、と思っていました。

 ちなみに、現地の写真はこんな感じです。

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図13.10番コントロール周辺(ジュネス八ヶ岳中庭、階段を通ってアタックするのがベストルート)

 

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図14.図10の①ルート通過時の写真。大空レストランのデッキの上を通過できる。

 このような場所は、人との接触リスクがあるので危ないのでは?と思う方もたくさんいらっしゃると思いますが、そのことに関しては後述します。

 

<④競技者が安全に競技可能であること>

<⑤その他の利用者に迷惑をかけないこと>

 ここからは、安全管理の話に入ります。

 ①~③は、コースセッティングをするうえで楽しみ的な要素(プランナーはここまででいいので、正直一番楽しいパートだと思います)ですが、④、⑤は競技責任者の腕の見せ所で、かなり根気が要求されます。写真を見ていただければわかると思いますが、一般の方も利用される施設ですので当然競技中の接触事故が考えられます。その接触事故を未然防止するために、立て看板の設置や安全確保の人員配置を斎藤氏、山上氏と話し合いました。その結果、出来上がった立て看板・人員配置案がこちらです。

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 図15.立て看板・人員配置案(アルファベットは立て看板、数字と人型は人員)

 北側の建物周辺に人員が集中していますが、これは一般の方の利用が集中する「大空レストラン」周りだから、という理由があります。こちらの大空レストランには、富士見高原リゾート全体の渉外以外にも、競技班として個別に渉外に伺い、競技中のリスクや当日の対応を説明に上がりました。

 また、9~11番の人には、花の里エリアを通行するカートと競技者の交錯防止の役割も担っていただきました。

【動画3】

youtu.be

 

 4番、17~19番の人員のいる駐車場では一般の車との交錯が考えられたため、その防止のための人員配置も行いました。

 そのほか、柵の周辺にいる人員は、通常柵の開閉はできないことになっている(オープンと花壇のエリアは花の里といって、花を観賞できる有料エリアとして管理されているため)ことを考慮して、一般の方が誤って開いている柵から入ってしまわないように管理をしていました。

 当日、これだけの人員の方に協力いただき、インカレスプリントは無事終了しました。テレイン内パトロールの人員は競技展開をしることができないので、通常の観戦者に比べればインカレ自体の楽しみは格段に落ちます。そうしたボランティア運営の元で、インカレは成り立っていることを今一度認識をしていただきたいと思います。(特に参加者である学生の皆さんは、卒業後は必ずインカレを運営してほしいです)

 パトロールには失格者の監視も兼ねてもらいましたが、初回のインカレスプリントで競技自体への理解が薄かった(通行不能柵、崖は通過したら失格など)こともあり、当日本部は失格者連絡の電話でてんやわんやでした。

 また、パトロールに注意喚起をお願いする以外にも、公式掲示板で選手本人に注意喚起することも行いました。スプリントは競技の特性上、一般人の通行がある場所で行う可能性があります。日本の中でスプリントを根付かせていくためには、一般の方に理解してもらうことももちろんですが、競技者として節度ある行動をとることも必要だと感じています。今後、インカレスプリントを存続していくうえでテレインの制約はついて回る問題だと思いますが、競技者自身もリスクを認識したうえで臨んでもらえると、よりよい大会になっていくかと感じています。

 

<⑥競技者が観客から見えやすいレイアウトにすること>

 スタートを競技会場にした時点で観客への露出はかなりあったのですが、まだまだ観客に選手を見てもらいたいという思いがあったので、会場内にビジュアルを設定しようと考えていました。さらに見ていて楽しい要素を追加するために、ビジュアルコントロールのアタック方向が分かれるようなレッグを設定し、観客も見ていて楽しめるようにしたいと考えました。コース的に、スタートしてから標高の高い側に向かい、もう一度会場に帰ってくるレイアウトだったため、標高の高いところから降りてくる選手を会場で見られるように、かつ通行不能崖の下にコントロールを置くことで、選手が戸惑う様、あるいはスムーズにアタックしていく様を見てほしいという意図でコントロール位置を決めました。

 また、フィニッシュに向かって全力で駆け上がる選手の応援をしてほしい、その応援が選手に対して届いてほしい、そのために高いところから応援できるレイアウトにしたい、そう思って、観戦エリアをかなり伸ばしました。ちなみに、最近のインカレでは会場内での並走が禁止されていますが、並走っていい文化だと自分は思っているので(少なくとも選手は相当力をもらえる)、最初は並走する人が順番に並んで一方向にのみ通過することのできる「並走レーン」というのを設定したいと思っていました。結局お蔵入りしましたが。

 あれこれ考えた結果、演出情報が集約されている作品、それが観戦ガイドです。

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   図16.観戦ガイド(表面):裏面には、スタートリスト

 これは私の先輩である小林遼氏(東大07入学)に作成していただきました。

 クオリティがとても高く、最初からもう文句のつけようがなかったです。大学時代に共に選手権リレーを走った(インカレリレー2010 椛の湖インカレ)先輩2人と一緒に運営する、というのはロマンだと今更ながら感じます。

 

 さらにちなみますが、観戦方式を会場のみとしたのは私としてはとても不本意でした。私が参加したFinlandのWOC2013では、予選・決勝いずれも、観客がコントロールのすぐ近くまで寄って観戦することができました。私は残念ながら予選落ちしてしまったので、決勝をコントロール周りで観戦していたのですが、当時からそのような観戦方式に憧れていて、インカレスプリントでもそのような観戦方式を根付かせたいという思いがありました。しかし、インカレといえば会場の応援、まだ浸透していないフリーの観戦方式を第1回のスプリントでやるのはリスクが高いという斎藤実行委員長の判断から、会場に情報を集約した形の観戦方式としました。これは、第2回のインカレスプリントでも同様だったため、これ以降のインカレスプリントで、採用の機運が高まったら、フリー観戦方式をとってみるのもありだと思います。ちなみに、福井で行われた試行大会では、フリー観戦方式がとられましたが、観客に理解がなかった部分もあり、ルート上に陣取る人たちが出ました。フリー観戦方式のためには、観客への周知の徹底が必須かと思います。

 

 長くなりましたが、ここまで考えた末、コースがようやく完成しました。

 第1回のインカレスプリントということで、今後のモデルケースとされる大会なので、とてもとても悩みましたが、それに見合うだけのコースには仕上がったかなと思います。

 

 

1-2-3.スタート前に、地図を使用したウォーミングアップエリアを作る

 上記のコースセッティングのほかに、やりたいことがありました。それは、「ミニマップを用いたウォーミングアップエリアの設定」です。

 これをやりたいと思ったのは、大学4年の時に参加したWUOC2012(Spain)でした。WUOC2012(Spain)では、各競技前にウォーミングアップのためのエリアが用意されており、小さいながらも地図があって、コントロールも設置されていました。競技前にコンパスワークや読図のタイミングを確認できるこのような場を設けてもらって、参加者側としてとても快適だったので、運営側に回った今それをやってみたいと思い、スタート枠の前にウォームアップエリアを設定しようと考えました。

 そのために利用できるスペースとして、ジュネス八ヶ岳別館の西側にある不整地エリアがありました。足場が悪いことを除けば、十分な広さとコントロールが設置できる位置が複数あったため、利用可能であると判断し、ミニマップの作成と当日のコントロール設置を行いました。

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     図17.ウォームアップマップ

 当日使用したウォームアップマップとは仕様が違いますが、上図のような地図を用いました。サイズは5cm x 5cmくらい。基本的には地図内の北西部分の立ち入り禁止エリアは、テレイン内の様子を確認できないぎりぎりのラインを現地で確認しながら設置しました。このエリアの設置を行ってくれたのも同期の田村直登氏でした。思えばかなりの仕事量ですが、文句も言わず引き受けてくれた彼には感謝です。

 

1-4.余談

 ここまでで既に相当長いですが、まだネタがあります。

 インカレスプリント2015では、参加者に見えないところで運営者が頑張っている点が2点ありました。

 1つは、「運営者自らが草刈りを行い、それが地図に反映されている点」です。

 実際、2週間前準備の段階で、なぜか「草刈り」という準備項目がありました。

 草刈りを行ってくれたのは、小林遼氏、燧暁彦氏(東大09入学、私の同期です)、山田晋太郎氏(東工10)、田村直登氏の4名でした。中でも燧氏は草刈り名人で、その鋭利なカット力から彼の草刈り技術は「ひうちカッター」と称されていました。下の図は、草を刈る運営者の写真です。

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       図18.草を刈る運営者

この草刈りによってどれくらい効果があったかというと、下の図19、20を比べてくださればわかると思います。ビジュアルコントロール前の斜面、および男子選手権7番コントロール周りで、現地にある高さ1mほどの草が一掃され、走行可能度が高い斜面が現れました。

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  図19.草刈りBefore。もっさり。

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  図20.草刈りAfter。すっきり。

 

もう1つは、運営者が並べたコーン柵が地図に反映されていること。

大空レストラン周りには、夏季~秋季にかけて花屋などの出店、花の里の受付が設置されるのですが、花の里が営業期間外に調査した影響で何も地図に反映されていませんでした(下の図21参照)。試走の段階で現地に行ってみると、なんと柵が大量に設置されているうえに、一般のお客様が大量に通るようなイベント出入り口が設置されていて、最初はコースとしての使用をあきらめかけましたが、富士見高原リゾート側の担当者が協力的で(よくも悪くも楽観的な方でした)、コースとしての使用を許可していただけることになりました。

 しかし、やはりオリエンテーリング競技者との接触事故を起こすわけにはいかなかったので、コーン柵を設置して一般のお客様と選手の導線を分けることを考えたのですが、なかなかその導線が決まらず。いろいろ検討を重ねて最終的には下の図22のように落ち着き、地図を元に前日の準備段階で設置しました。作業者は2人とかでやった記憶があり、夕方のかなり日が傾いた時間だったので日没までのタイムアタックだ、と思いながら並べていました。

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図21.柵の設置前。えらくすっきりしています。

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図22.柵設置後。並べるのに結構時間がかかりました。(並べたのは内側の曲がった部分)

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   図23.運営者が並べたコーン

 

地図に前段階で柵を記載しておき、当日に現地に反映させるというアイデアは、2013年の矢板で行われた第1回の試行大会の時に観戦していた経験から得たもので、当時はスプリントも手探りだったため惑わすには不十分な柵しか設置されていませんでした。今回は、その発想をもっと進化させて、お客様とのエリア分けとルートチョイスの制限という2つの意味を持たせることができたと思っています。準備に相当時間はかかりましたが、おかげでこれといった事故もなく、無事競技を終了することができました。

 

その他にも、ルートチョイスを増やすために地図と現地を改変したレッグはもう一つあります。男子・女子共通の2→3のレッグは、テニスコートを横切るのがベストルートなのですが、改変前は出入り口が3箇所ありルートチョイスに迷うようなことはありませんでした。そこで、3箇所ある出入り口のうち2つを塞ぎ、より迷うレッグに仕上げました。

 

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図24.改変前。そんなに難しいレッグではなかった。

 

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図25.改変後。テニスコートの扉を閉め、スズランテープで固定することで現地は対応しました。

 

これによってさらに、ルートチョイスの難易度が高くなったいいレッグに仕上がったかなと思っています。

 

その他、ここに書くほどの話ではないですが、運営中にあったトピックスとして。

・競技中にパラグライダーが飛んでくるエリアを通過する可能性があり、渉外に行きましたが競技中も競技者とパラグライダーが交錯しないかひやひやしてました。

・コースセットしていて、きれいな花のあるエリアを通らないほうが速いコース設定にしてしまったので、観光面では申し訳ないと思っています。

・選手権隔離所の選手出口のところに気性の激しい犬がいたため、犬嫌いの選手の方々には申し訳なく思っています。

・選手権隔離所出口をブルーシートで塞ぐ、ウォームアップエリアでもテレインが見えそうな位置は運営者の車で塞ぐなど、徹底して競技的な公平性を保つ工夫をしてました。

・皆さんの記憶にあるかはわかりませんが、会場にあったお立ち台的なものはチャンピオンシートとして利用してようかとかんがえてました。お蔵入りしましたが。

・通行不能崖を通過していく選手がたくさんいましたが、目の前に立ち入り禁止テープを張ってまで明示していたのに選手はそれに気づかなかったので、運営者は人事を尽くしたと思っています。

・当日の朝、誰も利用客がいないはずの駐車場に、キャンピングカーの集団が現れた時には心臓止まるかと思いました。幸い協力的な人たちだったため、選手権の間は邪魔にならないようにしてくれました。

 

とりとめのない話となりましたが、この辺でインカレスプリント第1回の余談は終了です。

 

2.第2回インカレスプリント

 今ホットな話題かと思いますが、こちらに関しては報告書も出ていない段階なので、そちらを参考にして頂きたく。とにかく、一見普通の公園に見えるようなテレインでも、スプリントと言えるような、高負荷のナビゲーションが要求されるコースを提供したかった。それに尽きます。

 

 ただ、2年連続で誘導が物議を醸してしまったことに関しては、責任を感じています。当日準備・確認をせざるを得ない以上、設置者への認識の徹底が今後のインカレスプリントでは必要になると感じています。

 しかし、2年連続で運営することで、かなり知見を蓄積することが出来ました。

 この2年間で、重要な部分のタスクを書き出して、どの時期に行ったか整理してみたものが、下の図26.になります。

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    図26.インカレスプリントチェックリスト

このファイルが今後の運営に生かされ、抜け漏れもあるかと思うので、補足されていくことでより円滑な運営になっていくことを望んでいます。

 

(第3回のインカレスプリントのアドバイザーって誰がやるんだろう)

 

3.おまけ

 インカレスプリント2015は、社会人1年目ということで運営するか非常に悩みました。実行委員長の斎藤氏からの勧誘がなければやらなかったでしょう。今では、誘ってもらったことにすごく感謝しています。

 ここからは、インカレの運営を通じて感じたことを。

 立て続けに3回のインカレを運営して、とにかくやりたいようにやらせてもらえて、一緒に運営した運営者には迷惑もかけたと申し訳なくも思いますが、それ以上に感謝しています。ありがとうございました。

 

 インカレ運営は、参加者が集まることがある程度約束されているため、金銭的には余裕があり通常の大会と比べて割と自由が効きます。

 自分は第1回インカレスプリントでコース解説を作って、web担当に頼んでweb公開もしたし(思い付きで勝手にやりましたすいません)、ミドルリレーでは選手紹介冊子作ったし(これも思い付きです)、オフィシャルレースのプランナーと演出を担当したし(ロゴ作ったのも自分です)。インカレは人もふんだんに使って大会を作り上げることのできる特別な機会です。

 責任者になればそれだけ仕事は重いですが、その分、自分が作り上げた大会だという自負も強くなりますし、そこまでの負担を負えないけどある程度コミットしたいという人にはパートチーフの権限で動かせる範囲も広くあります。

とにかく、やってみたいことがあるなら飛び込んでみること、それをお勧めします。

 

自分は、やりたいけどやれなかったことが結構ありました。

・ドローン飛ばして画像を撮りたい。

・中間で選手の動画中継してみたい。

・もっとリアルタイムで観戦できるようにしたい。

・ベストルート解説動画を作ってみたい。

迷路のような市街地スプリントテレインでコースセットしてみたい

などなど。

やれることはたくさんあるし、なにが参加者、観戦者に響くかはやってみないと分かりません。

 

仕事じゃないんだから好きなことやっていいんだと、自分はそう思います。インカレを、過去にライバルだった人たちと運営できる、あるいは仲間とともにもう一度作り上げることが出来る、それはロマンだと思います。

 

競技をやりたい人は、試走でアレコレ言えばいい。

運営で辛い時は人を頼りばいい。

でも、運営は辛いことばかりじゃない。

田中基成くんの言葉を借りますが、これもオリエンテーリングの面白さの1つなのでしょう。

 

3回のインカレ運営を経て、やっぱりオリエンテーリングっていいなぁ、楽しいなぁと心から思いました。もういい加減運営はいいかなと思っていますが、オリエンテーリングは好きなので、コントローラなど関われる部分で関わっていきたいと思っています。1番好きなのは合宿運営なんだけどね。設置もして、ランオブもできて、自分の練習も暇があればできる、そんなオリエンテーリング尽くしの立場って早々ないですし。

 

とりあえず、私の記事はここまで。ここまで読んでくれた方、長々とお付き合いいただいてありがとうございました。第2回の分が短いからと言って、思い入れがないわけじゃありません。競技責任者、プランナーと一緒に作り上げることができた、素晴らしい大会だと思っています。全部、今の自分の一部だし、オリエンテーリング人生が更に充実したものになりました。

とにかく、楽しかった!運営者のみんな、ありがとう!

そして、参加者の皆さん、お疲れさまでした。楽しんでいただけたでしょうか。

あまり周囲の反応というのを拾い切れていませんが、自分の思い付きの企画が少しでも皆さんの心に響いているとうれしいです。

 

最後に、インカレ運営者が連呼していた、この言葉で締めようかと思います。

全部、いいインカレだった!

 

第1回インカレスプリント競技責任者 兼 プランナー

インカレミドルリレー2015演出パートチーフ

第2回インカレスプリント イベントアドバイザー

結城克哉

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここからは更に余談です。

ここまではまじめにインカレスプリントの将来的に役立つ情報だと思って書いてきました。そして、インカレの運営者として書きました。

ここからは、現役生に対する、オリエンテーリング、特に次のインカレに向かう上でのメッセージです。あまり役に立たないかもしれません。

 

今、オリエンテーリングは楽しいですか?

インカレ直後に、インカレという場所に立つために頑張らないといけない、という義務感に似たものに突き動かされてませんか?

義務感で頑張れる人はそれでいいです。

ただ、僕はそのタイプではなかったので、ここで言いたいことは逆です。

義務感でオリエンをしないでください。

オリエンテーリングが楽しい、インカレで勝つのが楽しい、誰かにオリエンテーリングで勝つのが嬉しい、そのために努力する、それが自然な流れです。強制でやるんじゃない、自発でやるのが努力です。

周りの目を気にするんじゃない、自分がやりたいからやる。

 

ここから自分語りになります。

僕は大学3年の時から、割とインカレで優勝を期待される立場にいました。でも、期待は良く言えば背中を押してくれるし、悪く言えば人の勝手、自分が自発的に考えることではありません。心の向かう先を決めてくれるわけじゃありません。

だから、大学4年の最後のインカレの個人戦で、最後に拠り所にしたのは「オリエンテーリングを楽しむこと」でした。それが一番自分にとって自発的なモチベーションだったから。結果はどうでもよかった、ただ、集中して、地図で次のレッグをどうこなすか、どこでコンパスを振るのか、考えてうまくいったときにテンションが上がるのを感じて、ああ、オリエンテーリングっていいなと、1レースそのことだけを考えました。フィニッシュした瞬間、いいレースをしたのかわからなかった。自分のことを客観的に見れなかったレースは割と珍しくて、いつも「ああ、ミス率どれくらいだなぁ」という感触があったけど、フィニッシュするまで、しても、そんなことは考えなかった。その走りに結果がついてきてくれました。

リレーでは、それが揺らぎました。優勝したかった、できたレースだった、今でもそう思います。

でも優勝っていう結果は、走った後についてくるもので、リレーは、目の前にいる敵を倒す対人スポーツ。優勝という2文字に頭が持っていかれていて、目の前の敵に集中しきれていなかった、それが敗因でした。

 

4連覇という数字じゃない、大事なのはこの年の相手を倒すこと。

相手に誰が来る?どんな走りをする?テレインはどんなところ?

自分が一番速い走りをするためにはどんな手続きをすればいい?

行動、現実に落としていく作業をひたすら繰り返して、想定する。誰が来ても勝てるじゃない、相手を想定すること。それがリレーの肝。リレーはスタートするよりまえに、もっともっと前から始まっていて、誰が出てくるのか、どんなタイプなのか、そういう情報を仕入れるところから始まっていて、そういう対策のために仲間と相談する。個+個だけじゃない。オリエンテーリングは究極的には個人戦だけど、リレーで全員で戦うって、そういうことなんだと思う。あとは、当日に走っている人に精神的に支えを送る、走って苦しい時に応援する、そこだけ。

 

オリエンテーリングを真に楽しんで、目の前のレッグにひたすら没頭すること、できうる対策を考えること、それが速くなるために一番必要なことだと思います。

 

ということで、インカレ運営者でもなんでもなく、ただ一個人として言いたいことはここまで。

 

オリエンテーリングを、インカレを楽しんで!

そのための準備も、悩みも、全部ひっくるめて。

 

見つけた人にだけ。オフィシャル時代にかかわった君たちへ。

36期、もっと馬鹿になって目の前のことだけ考えろよ!楽しく!

37期、いい感じに収まってんじゃないよ!君たちはもっと速くなれる!

 

以上、お付き合いいただいてありがとうございました。

 

東大OLK32nd

結城克哉

 

明日12/18(日)は、マイソウルメイトのペゴこと尾崎弘和選手が海外経験を存分に生かした記事を書いてくれます!

 

~最後の最後にまだおまけ~

12/5に匿名さんが書いてくれた記事に登場した、Y城の追いコン練のレポート原本へのリンクです。暇な方はお読みください。

https://dl.dropboxusercontent.com/u/20351175/oikon-ren.pdf